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Vol.7 (1986/1[071])

<特集>
パラチフスBの取り扱い変更について


 昭和60年11月14日伝染病予防法におけるパラチフスの取り扱いについて,厚生省保健医療局長より,各都道府県知事および指定都市市長宛に通知が出された (病原微生物検出情報月報・70号参照)。 本通知は,伝染病予防法に定める「パラチフス」の起因菌をパラチフスA菌に限定するというもので,今後はパラチフスB菌およびパラチフスC菌が検出されても伝染病としての取り扱いはしないことになる。ここでは,上記局長通知が出されるに至った背景と経緯について概説する。

 パラチフス患者の発生数は1950年には1700余であったが,その後急激な減少を続け,1968〜1977年には,100以下に抑えられていた。しかし,1978年以降再び増加傾向を示し,保菌者を加えた発生数は500を超えるに至った。これはパラチフスの中でもパラチフスB菌による患者(または保菌者)の増加によるものであった(図1)。

 この頃から各地の防疫担当者と細菌検査室あるいは担当医師との間でパラチフスB患者の取り扱いをめぐって混乱が生じ,その解決を求める声が高まった。S.paratyphi BS.javaの鑑別に問題のあることがクローズアップされたのである。予研ファージ型別室はチフス菌,パラチフス菌のレファレンス・ラボとしての立場から鑑別上の問題点を整理し,いくつかの知見を得た。中でもパラチフスB菌の特性とされていたD−酒石酸塩利用性陰性から陽性への集落の解離が容易に起こり,本性状はきわめて不安定であることを明らかにした(表1)。

 公衆衛生審議会の下部組織である腸チフス小委員会はこれを受けて1980年以降数次にわたり検討を重ねた。そして1984年6月22日その結果を腸チフス小委員会報告にまとめ,同12月3日の公衆衛生審議会伝染病予防部会に提出した (本号資料参照)。 小委員会報告は審議会で検討,了承され今回の局長通知となったものである。

 腸チフス小委員会での検討と時を同じくしてサルモネラの国際分類に変更があり,S.javaはS.paratyphi BのD−酒石酸塩利用性陽性変異株としてS.paratyphi Bに包含されることになった。

 パラチフスBの発生届出数が1981年以降急増した理由の1つでもある。

 腸チフス小委員会ではパラチフスの臨床像,疫学についても検討し,パラチフスBおよびCは一般のサルモネラ症として扱うことが妥当であるとの結論に達した。パラチフスB患者の発生が7〜8月の夏期に集中し食中毒発生のパターンにきわめて近いこと(図2),パラチフスB菌は動物,食品,環境などから相当数分離され(表2),パラチフスAとは大きく異なることも明らかになった。パラチフスB菌のファージ型の中にはD−酒石酸塩利用性と相関の高いものがあり(表3),細菌学的に興味ある問題を残している。なお,ファージ型はサルモネラ感染症の対策上疫学調査のマーカーとして有用なので,パラチフスB分離株のファージ型別は従来通り奨励されるべきである。



図1.パラチフス患者発生の推移
表1.パラチフスB菌のD−酒石酸塩利用性について陽性集落の解離率
図2.パラチフスB患者の月別発生状況(発病月による分布)
表2.パラチフスB菌の分離状況
表3.パラチフスB菌のファージ型とD−酒石酸塩利用性





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