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1985年9月に東京都で初発したA香港(H3N2)型ウイルスによるインフルエンザは例年より2ヶ月早く全国的流行となり,年末までの集団発生の累計患者報告数は約63万人となった。これは年末までの発生数としては過去10年間で最高である。しかし,年が明けると患者発生は極端に減少し,シーズン全体としては約64万人という中規模の流行に終った(図1)。
A(H3)型は1980〜83年までは毎年流行期に検出されていたが,83/84シーズンには全く検出されず,84/85シーズンはこの年のB型流行に混在して11月以降7月まで散発的ながら全国的に分離がみられたために,次シーズンの流行が予測されていた。85/86シーズンに入り11月〜12月の流行ピークには46都道府県市から合計1,532株が報告された(表1)。
85/86シーズンのA(H3)型分離株170株について予研で実施されたHA抗原分析の結果では,ワクチン株に近い反応を示した株は34%で,ワクチン株との差がかなり大きい株が20%程度みとめられた(表2)。
1986年3月にA(H3)型が検出されなくなると入れ替わりにA(H1)型が検出され始め,季節はずれの集団発生を含めウイルス検出は7月まで11府県市から報告された(表3)。
これら散発例または集団発生から分離されたA(H1)型の抗原分析の結果はワクチン株(A/バンコク/10/83)と大きく異なることを示したので,今季ワクチンにA/山形/120/86株が急拠追加された(表4)。
ウイルス分離例について年齢分布をみると,現在までの報告ではA(H1)型は5〜9歳(41%)が中心である(表5)。
ウイルスはすべて鼻咽喉材料から発育鶏卵または組織培養細胞によって分離されている。
ウイルス分離例の臨床症状を表6に示した。
図1.インフルエンザ様疾患患者発生状況
表1.月別インフルエンザウイルス検出状況(1985年1月〜1986年11月)
表2.1985/86年に分離されたインフルエンザ香港(AH3N2)型ウイルスの抗原分析
表3.月別住所地別インフルエンザウイルスA(H1)型検出状況(1986年1月〜11月)
表4.1986年3月〜4月にわたって分離されたインフルエンザソ連(AH1N1)型ウイルスの抗原分析
表5.インフルエンザウイルス分離例の年齢分布(1985年1月〜1986年11月)
表6.インフルエンザウイルス分離例の臨床症状(1985年1月〜1986年11月)
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