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「紅斑熱群リケッチア症の発生している四国東南部と自然条件の類似する九州南部にも本症の発生が考えられる」との内田孝宏教授(徳島大学医学部)の意見もあり,宮崎県内での本症の有無を内田教授らと協同で検討した。
1982年4月から1986年4月にかけて,恙虫病類似疾患として宮崎県内で発症し,血清学的(間接蛍光抗体法)に恙虫病が否定された50名の患者保存血清についてRickettsia montana:VR611株(内田教授より分与)に対する抗体を間接蛍光抗体法により調べた。その結果,3名の患者の対血清でIgMおよびIgM抗体価の上昇が認められ, これら3名の患者が紅斑熱群リケッチア症であることが確かめられた。なおD社製の抗原を用いたWeil-Felix反応では,OX2抗原に対する抗体価の上昇が3名中2名の患者で認められた。
各症例はそれぞれ1983年10月(43歳・女), 85年6月(72歳・男)および86年4月(68歳・男)に発症しており, どの患者も発症の11日〜19日前に山林での作業に従事していた。3症例に共通する所見は,@発熱(38℃〜39.5℃), A全身の発疹(小豆大〜小指頭大), B刺口の形成, C軽度肝機能障害およびD白血球分類による軽度の核の左方移動であった。なお1例では刺口の所属リンパ節の腫脹も認めた。治療ではテトラサイクリン系抗生剤(minocycline)が著効を示した。
本調査により宮崎県にも紅斑熱群リケッチア症が存在することが明らかとなった。本症の発生時期については明確でないが, 今回の3例と四国の例は4月から10月にかけて発生している。一方, 宮崎県では恙虫病が11月をピークとして9月末から3月までに多発している。従って,本県では夏期に恙虫病類似疾患を見た場合,紅斑熱群リケッチア症も疑うべきであろう。
前述の様に紅斑熱群リケッチア症の症状は,恙虫病のそれと類似している(協同研究者である主治医によれば,ほとんど区別できない)上に,発生時期の重複も考えられ,特異的血清診断により両疾患を確定することが重要と思われる。またその結果,紅斑熱群リケッチア症発生の実態が明らかになっいてくと思われる。
宮崎県衛生研究所 山本 正吾 川端 紀彦
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