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1.1986年2月,妊娠29週の30歳の女性が重症の敗血症で入院。帝王切開したが子供は3日後死亡した。患者は集中治療室処置を要する重症であったが,テトラサイクリンに劇的に反応して17日後に退院,全快した。単クローン抗体とポリクローナル羊抗体を用いた検査で新生児の肺と肝臓の切片にヒツジC. psittaciは認められなかった。母親はクラミジア群抗原に対し,発症19日には≧1,280,その6日前は<10であった。マイクロIF価は発症31日の血清でC. psittaciIOL395(humanocular)に陰性,A22(ovine)に128,A10(guinea pig)に64を示し,ヒツジ株感染が示唆された。患者は発症前,羊に接触していたが,その羊群の抗体は陰性であった。
2.1986年5月,羊農場の29歳の妻が妊娠26週で発症,1週間後に入院,播種性血管内凝血と腎不全を伴う敗血症の診断で,ペニシリン(後にアンピシリン),エリスロマイシン,ゲンタマイシンの治療を開始した。入院7時間後に正常児を流産した。患者は集中治療室に移されヘパリンが投与された。腎機能は6日後に軽快し,予後はよく1週間後退院した。
胎児に感染はみられなかったが,患者のC. psittaciに対するCF抗体は入院時陰性,14日目は1:256,退院後3ヶ月には1:16であった。患者は直接動物には接しないが,農場では前冬に40以上の羊が流産し,血清学的にOvine Abortion Agent感染が確められた。この因子はC. psittaciと抗原的に類似し,C. psittaciのスクリーニング抗原として広く使用されている。羊においては一般的流産原因だが,ヒトとの関連はまれである。
3.1986年2月13日,羊農場の30歳の妻が発熱,2週間でおさまったが,3月13日再び発熱,関節痛,胸痛,咳,さらに10日後肝炎となり3月28日入院,2日後妊娠15週で死産した。入院時と1月前の血清検査で3種の抗原にCF価上昇がみられた:C. psittaci<8→768,Coxiella burnetti48→1,024およびインフルエンザA<8→192。夫はC. burnetiiとC. psittaciのCF価がそれぞれ24と16で過去の感染を示した。胎児組織は単クローン抗体を用いた直接IFで陰性だったが,胎盤はgenus特異抗体で陽性,McCoy細胞でC. psittaciが分離され,DNA分析でヒツジ株であることが確認された。
患者は診断後deoxycyclineを1日100mg,10日投与され退院,全快した。農場では1985年1月にC. psittaciによる流産があり,秋にワクチンの接種をおこなってその後発生はなかった。患者発生後の検査で,羊はクラミジアおよびC. burnetiiに対してすべてCF陽性だった。患者の最初の発熱はQ熱,次がインフルエンザとC. psittaci感染とみなされるが,胎盤からの検出は流産原因がクラミジアであることを示すものとみられる。
4.C. psittaciは動物界に最も広く分布する病原体で,多くの動物で顕性および不顕性感染をおこす。1985年の1,161例は報告された流産例の20%にあたる。壊死性胎盤炎症をおこし,周囲を汚染して他の動物が感染する。卵黄嚢を用いたホルマリン不活化単価ワクチン導入後,この病気はおさまっていたが,1970年代終りに,ワクチン接種群で再発し,抗原性と病原性の変異が示唆されている。他の株がワクチンに追加されたが効果の評価に十分な野外成績はまだ得られていない。
(CDR,86/45,1986&87/10,1987)
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