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Vol.8 (1987/7[089])

<国内情報>
高知県安芸市におけるインフルエンザB型の集団発生について


 1987年4月28日感染症サーベイランスの患者定点である安芸市内のD病院より,同市内のS中学校(生徒数515名)で,発熱,咳を主徴とする疾患が多発しているという情報が入った。安芸市は高知市より東へ約40km,農村地帯にある人口2万5千人の市である。太平洋に面し,冬季でも温暖で,毎年阪神タイガースがキャンプをはるところから,別名タイガースタウンとも言われ,このシーズン,トラキチ達が訪ねる街である。

 S中学校における流行期間中の発病者は386名(75%)であり,主症状は発熱(38〜40℃),咳,咽頭痛,頭痛,腰痛,全身倦怠感等であった。また,昨年のインフルエンザワクチン接種は131名(25.4%)が受けており,そのうち107名(81.7%)が発病した。非接種者との間に有意の差はみられなかった。

 5月1日,有症者9名より咽頭ぬぐい液を採取し,ウイルス検査を行った。インフルエンザウイルス分離にはMDCK細胞を用い,2名からウイルスを分離した。分離当初はインフルエンザセンターより1986年分として分与されたキットを用い同定を試みたが困難であった。このため,5月14日国立予防衛生研究所ウイルスリケッチア部・ウイルス第3室へ同定を依頼したところ,B/シンガポール/222/79,B/USSR/100/83,B/茨城/2/85とは1/8〜1/32とかなり変異のみられるB型であることが判明した。

 また,上記9名中8名については5月1日,26日の両日,血清を採取し,上記キットのB/茨城/2/85を用いHI抗体価を測定した。その結果,7名に4倍以上の上昇をみた。

 後日,S中学校をはじめ安芸市にある8小中学校について,同時期の欠席者の動向を調査した。S中学校では4月15日から本症による欠席者が出はじめ,5月1日にピークを示して,以後漸減し5月23日まで続いた。本校から4km離れた地点にあるA中学校では患者はほとんどなく,欠席者も特に変化がみられなかった。小学校については,6校中S中学校の校区内にあるK小学校でやや遅れて,同様の症状を示す欠席者のピークがみられた。

 6月に入り,高知市内,南国市内の検査定点よりカゼ様症状を呈した患者から採取した咽頭ぬぐい液が数件持ち込まれたが,現在までに同型ウイルスの分離はできていない。このことから,今度の時期はずれのB型による集団発生は安芸市のS中学校およびK小学校に限られていたと思われる。今後の動向を注目したいと考えている。



高知県衛生研究所 千屋 誠造・麻岡 文代・高橋 富世・出口 祐男・太田 武夫
安芸市尾木病院 尾木 文之助


日別欠席状況





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