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Vol.8 (1987/10[092])

<国内情報>
東京湾のコレラ菌汚染事件


 新聞等の報道でも周知のように,本年6月東京湾においてコレラ菌汚染事件があり,その対策が苦慮されたところであるが,幸いこの事件で検出されたコレラ菌はいずれもコレラエンテロトキシン非産生の非定型エルトール型菌で,この事件に直接関連した患者の発生もなく,大きな混乱なしに事件の終息をみた。

 このコレラ菌汚染事件の発端となったのは,東京検疫所(厚生省)で毎月定期的に実施している東京湾の海水検査で初めてコレラ菌が検出されたことによるもので,6月9日に実施した検査では採水7地点中4地点,また,続く6月11日の検査で採水12地点すべての海水からコレラ菌を検出,湾内のほぼ全域にわたってコレラ菌の汚染のあることが判明した。

 6月12日に厚生省からこの事の通報を受けた東京都は事態の重要性に鑑み,さっそく衛生局内に対策会議を設け,汚染源究明を主眼とした調査を実施することを決定した。調査に当たっては,この汚染源として疑われる河川をも対象とし,湾内に流入する主要11河川13ヶ所につき菌検索を実施することとした。また,東京検疫所の管轄区域外である東京湾内2ヶ所の海水もこの調査に含めた。

 調査結果は別表に示す通りで,6月13日に実施した第1回の調査では12河川中7河川8ヶ所および海域2ヶ所中1ヶ所が菌陽性,また,6月16日に実施の第2回調査では,1回目に陽性であった8ヶ所中5ヶ所の河川と1ヶ所の海水が陽性であった。すなわち,コレラ菌は湾内だけでなく,流入河川にも広く分布することが確認された。このため,さらにこの河川汚染の汚染源調査の是非につき検討がなされたが,コレラ菌検出河川は広範囲でいずれも海水が遡上する感潮区域にあり,その汚染源や汚染の因果関係の追求がきわめて困難な状況にあるだけでなく,分離コレラ菌もその後東京検疫所から報告されたと同様,すべてコレラ毒素非産生の無毒株でその菌株もごく少ないものであったことなどから,これ以上の調査は実効がないと判断,以後の調査を打ち切ることに決めた。

 なお,この種のコレラ菌が環境から検出された実例は諸外国においても報告されており,問題になっている。厚生省でもこの種の毒素非産生菌の行政措置上の取り扱いについて,公衆衛生審議会伝染病予防部会コレラ小委員会において検討を開始した。結論が出次第本誌でも紹介する予定である。



東京都立衛生研究所 工藤 泰雄


 河川水からのコレラ菌検出状況





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