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Vol.8 (1987/10[092])

<特集>
赤痢


 伝染病予防法に基づいた赤痢(アメーバ性を含む)の届出患者数は1960年代半ばまで毎年数万人であったのが,1966年〜1976年に急速に減少し,1,000人前後となり, 以後ほぼ横ばいである(図1)。1985年の届出患者数は1,128人で,内訳は細菌性赤痢991人,アメーバ性赤痢137人でともに前年より増加した。特にアメーバ性赤痢は近年増加傾向にある(表1)。

 細菌性赤痢患者数を菌群別にみると,A,C群は少数であるのに対し,B,D群は1976年以降ほぼ横ばいで,1983年以後はD群が最も多く過半数を占め,次いでB群がD群の半数前後である(図1)。

 表3に1985年および1986年に都市立伝染病院と地研・保健所で検出された赤痢菌の群別検出数と各群の輸入例の占める割合を示した。A群およびC群は主に輸入例から検出される。D群は輸入例からの検出数は毎年それほど大きく変動しないが,1986年には,本菌による国内の集団発生が多かったため,地研・保健所での検出数がめだって増加した。B群では輸入例数および輸入例の割合はいずれも最近3年ほぼ同様である。

 細菌性赤痢は約半数が輸入例であり,感染地別にみると大部分の感染地はアジアで,1985年の国別集計ではインド156,インドネシア60,タイ37,フィリピン34などが上位を占めている。これに対しアメーバ性赤痢は6割が国内発生例である(表2)。

 一方,各都道府県・指定都市の赤痢集団発生終息報告によると,1985年には集団発生が48件,患者数は294人,発生場所別では海外ツアーが最も多く,33件104人,次いで保育園,幼稚園が3件68人,学校3件15人,その他9件107人であった。近年は,海外ツアーや合宿の多い春夏の休暇時期に件数が増加する傾向がみられ (7巻10号22頁参照), 1985年も3〜5月と8月に件数が多かった。特に保育園,幼稚園における集団発生は1件あたりの患者数が多くなる。これは近年D群だけでなくB群においても赤痢の軽症化によって初発患者の正確な臨床診断がなされにくくなっているためで,集団施設に対する予防指導の徹底と発生時における迅速な防疫対策の必要性が指摘されている。

 1986年の分離株について,伝染病院で行われた抗生物質感受性試験の成績によると,検査された233株中201株(86%)がクロラムフェニコール,テトラサイクリン,カナマイシン,アンピシリン,ナリジキン酸のうちいずれかの抗生剤に耐性であった。D群ではTC単独耐性が65%,TCとその他の抗生剤との多剤耐性が20%であったのに対し,B群はCP,TC,ABPCの3剤耐性が45%,CP,TC,KM,ABPCの4剤耐性が17%など,多剤耐性が特に多かった(表4)。輸入例からの分離株の耐性率は国内例よりも常に低いが,1986年は国内例95%に対し82%にまで増加した (8巻7号22頁および 8巻9号21頁参照)。



図1.赤痢患者発生状況(伝染病統計)疑似患者・保菌者を除く
表1.最近の赤痢患者数の内訳(伝染病統計)
表2.感染地(国内−国外)別赤痢患者数,1985年(伝染病統計)
表3.輸入例からの群別赤痢菌検出状況
表4.群別赤痢菌の抗生剤耐性





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