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Vol.8 (1987/10[092])

<国内情報>
早期診断により完治したレジオネラ肺炎症例の菌検索について


 昭和62年6月,静岡市内の病院でLegionella pneumophila serogroup 1を原因とする重篤な肺炎患者が発見されたが,早期診断と適切な治療により救命しえた症例について検査を中心に紹介する。

 患者は48歳の塗装業の男性で,2年前に結核に罹患したがほぼ治癒状態にあった。62年5月23日,発熱のため開業医で受診したが,解熱せず,5月29日静岡県立総合病院に入院した。入院当日の胸部レントゲン撮影で左肺に広範な陰影を認め,入院後2〜3日間は極めて重篤な状態が続いた。患者の診療にあたった呼吸器科・江藤尚副医長(本多淳郎医長)らは,当初からレジオネラ肺炎に疑いをもち,当該菌の検査を指示した。6月1日に採取した喀痰をWYO培地に接種し培養したところ,4〜5日後に数個のレジオネラ様集落の発育をみたため当センターに同定依頼がなされた。

 分離株はベン毛を有するグラム陰性の細長い桿菌で,発育は遅く3〜5日培養でB-CYE培地上に特有の臭気を有する白色・正円形の集落を形成し,L-システインを除いたB-CYE培地には発育しなかった。また,オキシダーゼ弱陽性,カタラーゼ陽性,ゼラチナーゼ陽性,硝酸塩還元陰性で,馬尿酸を加水分解し,B-CYE培地上に発育した菌に長波長の紫外線を照射すると暗黄色を示した。市販の抗血清(デンカ生研)を用いた凝集反応ではL. pneumophila serogroup 1に対して特異的な凝集を示した。

 以上の諸性状から,分離株はL. pneumophila serogroup 1と同定され,細菌学的検査成績等から本症は当該菌による肺炎と確定診断された。

 また,6月24日および7月16日に採取した血液について蛍光抗体法により抗体価を測定したところ,両血清ともL. pneumophila serogroup 1に対して256倍の抗体価を示したが,L. pneumophila serogroup 2〜9,L. bozemanii serogroup 1および2,L. micdadeiL. dumoffiiL. gormaniiに対しては有意の抗体価上昇をみとめず,L. pneumophila serogroup 1による感染であることが裏づけられた。

 患者は診療スタッフの早期診断と適切な治療(erythromycin,rifampicin投与)によって救命され,入院後10日前後で軽快し,7月19日に退院した。

 なお,患者の住居付近の環境材料からレジオネラの分離を試みるなど感染源を追求したが明らかにすることはできなかった。



静岡県衛生環境センター 三輪 憲永 赤羽 荘資 斉藤 祥博 中津川 修二





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