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Vol.8 (1987/11[093])

<資料>
乳児ボツリヌス症予防対策について


 乳児ボツリヌス症は,1976年米国において初めて発生が確認され,以後各国で約650例の発生報告がなされ,我が国においても昨年千葉県,本年京都市においてその発生が報告されたところであり,今後もその発生の恐れがあるところから,その予防対策の在り方について検討を行ってきた。

 本症は,我が国における発生例も少なく,その感染源,発生機序等が必ずしもあきらかでない面もあるが,その感染源については,諸外国の文献および千葉県における発生例からみて蜂蜜が最も疑われ,1986年度厚生省が行った蜂蜜中のボツリヌス菌(芽胞)汚染実態調査の結果においても,512検体中27検体(5.3%)からボツリヌス菌(芽胞)が検出されていること,また,本症は現在までの報告では,生後3週齢から8ヵ月齢までの乳児に発生がみられること等の現時点における知見を十分踏まえ,当面,次に示す方向で予防対策を進めるべきものと考える。



 1.乳児ボツリヌス症は,1歳未満の乳児に蜂蜜を与えることにより,発生する場合が多いものと考えられることから,この時期の乳児には蜂蜜を与えないようにすることが必要であること。このための具体的な進め方としては,保健関係者に対し,本症の予防に関する知識を広く周知し,母親等に対する保健指導を行うのが最も妥当である。

 2.本症の診断治療法を小児科医師に広く周知する一方,診断用血清の供給体制並びにボツリヌス菌及び毒素の検査体制の整備を図ること。

 3.本症の感染源について更に調査研究をするとともに,蜂蜜のボツリヌス菌(芽胞)汚染の原因,汚染された蜂蜜のボツリヌス菌(芽胞)の除去方法等についても調査研究を進めること。

 参考:乳児ボツリヌス症とは

 乳児ボツリヌス症は,1976年,米国で発見されたボツリヌス菌による新しいタイプの疾病であり,現在までの報告では,生後3週から8ヵ月齢までの乳児に発生がみられている。本症は食品中に毒素が存在して起こる従来のボツリヌス食中毒とは異なり,芽胞として存在しているボツリヌス菌を摂取し,当該芽胞が下部腸管で発芽・増殖し,産生された毒素により発症するものである。

 症状は,米国の研究者の報告では,頑固な便秘をおこし,便秘状態が3日以上続いた後に,母乳,人工乳に関係なく吸乳力が低下し,泣き声も弱くなり,顔面無表情や筋肉(特に頚と手足)の弛緩を呈し,次第に全身の筋力低下(嚥下困難,口腔内唾液貯留,瞳孔散大,対光反射減弱,眼瞼下垂,咽頭反射減弱等)が著明となる。重症では,呼吸困難,呼吸停止がおこる。通常,嘔吐,下痢はみられない。

 感染源としては,蜂蜜,ハウスダスト等が考えられているが,北米,南米,ヨーロッパ,オーストラリアで,現在までに報告された約650症例のうち,約1/3は蜂蜜を介してボツリヌス菌を摂取したことが判明している。米国では市販蜂蜜の10〜15%からボツリヌス菌が検出されている。我が国においても,厚生省の昭和61年度厚生科学研究事業の報告では,巣箱から直接採取したもの,市販品,国産品,輸入原料及び輸入製品,計512検体のうち27検体(5.3%)からボツリヌス菌が検出されている。

 我が国においても,昭和61年に83日齢の男児が,昭和62年には40日齢の女児が乳児ボツリヌス症と診断され,その症例が報告されている。



乳児ボツリヌス症予防対策検討会 座 長 木村 三生夫





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