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感染症週報:昭和62年第25週〜第39週
感染症月報:昭和62年7月〜9月
昭和62年12月1日
第3四半期が終了した時点での小委員会の解析評価を報告する。
小児科:内科定点
1.概況:第3四半期は,通常,ヘルパンギーナ,手足口病,咽頭結膜熱など夏期感染症がピークを作る時期であり,また,麻しん,水痘など冬から春にかけての感染症が,盛夏を迎えて減少して行く時期である。
本年度前半の最大の動きは,風しんと伝染性紅斑の流行であったが,この時期急速におさまっている。風しんは第22週のピーク時には全国平均定点当たり10.71人と,前回流行の昭和57年のピーク9.27人(第19週)を上回る発生となったが,以後,急速に減少し,第39週には定点当たり0.14人と,ほぼ最低レベルとなった。伝染性紅斑の流行は昭和61年春から始まったが,7月にピーク(定点当たり0.90人)に達した後,秋にいったん下降したものの,年末より再上昇し,本年前半には昨年のピーク時を上回る定点当たり1.0人以上の発生が続き,ようやく第28週以降明らかな下降を認め,第39週には定点当たり0.10人となった。
夏期感染症のヘルパンギーナの発生はほぼ例年なみで,第28週にピークとなった後減少しているが,例年,同時期にピークを作る手足口病は,本年は少し違った動きを見せている。本年夏期の手足口病は昨年と同様に少なく,第29週のピークでも定点当たり0.98人であった。その後は低下傾向がみられ,第32週には定点当たり0.65人となったが,以後再上昇し,第39週には定点当たり1.21人となっている。7月の発生と再上昇時のウイルスタイプが異なるのかもしれないが,その情報を待ちたい。
無菌性髄膜炎は本年度から月報として報告されるようになったが,8月に病院定点当たり0.46人のピークを示している。この発生は例年よりは少なかった。
咽頭結膜熱は,例年8月か9月初めにピークを作る。本年は第27週から急激な上昇傾向を認め,そのカーブは流行の大きかった昭和59年の上昇カーブと一致していたため心配されたが,第32週以後はそれ以上の発生となることなくおさまっていった。
その他の疾病についてみると,麻しんは昭和59年の全国流行の後,昭和60年はこれまでの最低の発生であったが,61年,62年と順次発生数は増えている。本年第22週のピーク時に定点当たり0.88人であったが,第39週には0.14人に下がった。水痘はほぼ例年なみであるが,第21週には定点当たり4.03人と6月に増えたが,第29週以後急速に減少した。流行性耳下腺炎は昭和60年の流行の後,昭和61年夏以後減少し,本年はこれまでの最低の発生状況が続いている。百日せきは昭和57,58年にくらべて59年には約半減したが,以後は横這いの状態で,本年も同様である。溶レン連感染症は例年類似のパターンをとるが,昨年秋から年末にかけての上昇は例年よりも少なく,続いて本年も夏まで例年にくらべて最低の発生であった。上記以外の疾病は,特別の動きはみられなかった。
2.風しん,伝染性紅斑のブロック別発生状況:本年初めから,流行の終った第3四半期までのブロック別定点当たり発生数を示す。風しんは,北海道(53.15),東北(273.63),関東甲信越(226.86),東海北陸(153.93),近畿(96.55),中国四国(141.59),九州沖縄(164.69)である。昭和61年は関東甲信越と近畿を中心とした流行がみられ,特に神奈川県は年間報告数128.07と流行がめだった。本年は東北,関東甲信越の発生が多く,定点当たり300人以上の発生をみた県は,青森,宮城,秋田,群馬,埼玉,千葉で,その他では徳島の430.93,福岡の480.32,北九州市588.40,福岡市453.54がめだった。
伝染性紅斑は,北海道(22.17),東北(34.45),関東甲信越(27.11),東海北陸(41.04),近畿(44.62),中国四国(46.24),九州沖縄(37.16)で,昨年は関東甲信越が多く,年間報告数定点当たり40人以上は埼玉,東京,神奈川で,東京周辺が発生の中心であり,その他では鳥取,宮崎が40人以上を示した。本年は全般的に多発し,地域差はそれほどめだっていない。定点当たり50人以上の県は宮城,秋田,富山,福井,三重,京都,和歌山,鳥取,島根,愛媛,福岡と,まとまっていない。このうち特に多かったのは富山(101.71人),福岡県(87.20人),福岡市(128.08人)である。
眼科定点
咽頭結膜熱は,第28週より急激な増加がみられ,59年の大流行を凌駕する勢いであったが,幸い第31週で流行も止まり,第37週からは急な減少を示した。例年の発生パターンからみると,今年はこのまま消退するものと期待される。
流行性角結膜炎は,静岡,佐賀,熊本,沖縄の各県で小流行(1定点当たり10〜20人/週)がみられたが,大きな流行はなかった。今年は,感染症サーベイランスが始まって以来の静かな動きのみでおさまりそうである。
急性出血性結膜炎は,熊本,大分など九州で1定点当たり4〜8人/週ほどの小さな流行をみたが,幸い大きな動きはなかった。今年はこれまでのところ,危惧されていたコクサッキーウイルスA24型の大きな流行は認められていない。しかし,例年,これからの時期に多発がみられるので,今後の発生状況に注目したい。
ウイルス肝炎関係病院定点
1.月別:(1)A型肝炎:3,4月をピークとする発生の増加がみられたが,7月以降著明な発生の低下がみられている。従来の季節変動と同様である。また,流行発生はなかった。(2)B型肝炎:4月および5月に発生の低下がみられたが,以後,徐々に増加の傾向にある。4月および5月の発生の低下の原因は明らかでないが,エイズ騒動との関連も考えられる。(3):その他の肝炎:明らかな季節変動は認められていない。
2.性別:A型肝炎の男/女比は約1.1,その他の肝炎のそれは約1.2で,男女ほぼ同数であるが,B型肝炎の男/女比は約1.8で男性に明らかに多い。これはSTDとしての感染が関係していると考えられる。
3.年齢別:(1)A型肝炎:20代までは各decadeともほぼ同様の発生頻度であるが,30代をピークとして明らかな発生頻度の低下がみられる。従来の報告とほぼ同じである。(2)B型肝炎:30代に明らかなピークがみられ,20代,30代および40代で約60%を占めているのが注目される(A型肝炎は約50%,その他の肝炎は約35%)である。(3)その他の肝炎:10代以降は各decadeごとに増加の傾向がみられるが,9才以下とくに4才以下に発生例の多いことが注目される。新生児肝炎の含まれている可能性もあり,1歳ごとの発生数を調査する必要がある。
性行為感染症定点
対象全疾患の定点当たり件数の9月までの推移は,4月の66.7を底として横這いから漸増に転じ,9月は74.4と3月のレベルを上回った。この傾向は9月の尖圭コンジロームを除きほとんどの疾患にみられ,とくに陰部クラミジアでは著明であり,9月は88.7と2月のレベルに近接している。
各疾患別定点報告件数百分率では陰部クラミジアとトリコモナス感染症のシェアが増し,淋病様疾患(淋菌感染症)と尖圭コンジロームのそれが減少を示した。ただし現在まで定点の代表性に関する情報が欠けているため,そのまま全国状況の推定値とみなすことは適当でないと考える。
さて,エイズをめぐる報道の影響も7〜8月の感染頻度の増加を抑えるまでには至らなかったとみられ,今後の動向をきびしく注視したい。
結核・感染症サーベイランス情報解析小委員会
各decade別のウイルス肝炎各型の発生頻度
1987年1〜9月定点総受診件数疾患別百分率
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