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昭和62年9月,愛知県において台湾旅行者とその家族および家族1名の同級生等を含む25名(名古屋市の旅行者5名を含む)のS. sonneiによる赤痢の発生があった。発生の概要と愛知県衛生研究所で実施した薬剤感受性およびコリシン型別の結果を紹介する。
発生の概要:昭和62年8月23日から30日の8日間にかけて,台湾を旅行したAグループ(84名)の2名は入国時の検査でS. sonneiが検出され,9月1日赤痢と診定された。このため,県内の同行者38名の検査を行った結果,9月5日までに2名から同型の赤痢菌が検出された。Aグループの患者4名はいずれも旅行中の8月25日または26日に発病しており,うち2名は8月26日に現地で受診している。他にも同様の症状で5名が受診しているが,いずれも赤痢菌は検出されなかった。
さらに,Aグループと同期間でほぼ同行程のB(62名),C(90名)の2グループがあった。そのうち,Bグループの1名は帰国後の9月3日に発病し,9月5日にS. sonneiが検出された。そこで,B,Cグループについて細菌検査を実施したところ,9月16日までにBグループの8名(保菌者3名を含む)からS. sonneiが検出された。Bグループの有症者6名はすべて帰国後に発病していた。加えて,旅行者1名S.Y.の家族7名中6名(保菌者2名を含む)およびS.Y.の孫M.Y.の同級生等6名からも同型の赤痢菌が検出された。
この結果,台湾旅行に関連した赤痢患者の発生は旅行者13名(名古屋市内5名を含む),国内感染者12名計25名であった。当所では旅行者12名および国内感染者12名の菌株について,CM,TC,KM,PCA,CER,NA,CLの薬剤感受性およびコリシン型別を実施した。その結果,すべての菌株がCM,TC,PCA,NAに抵抗性を示し,コリシン2型であった。
国内感染者の感染源および感染経路:S.Y.の家族の発病は9月8日,M.Y.の同級生等の発病は9月9日であったことから,感染源として土産品が疑われた。しかし,土産品の配布先の親類等では患者の発生はなかった。また,M.Y.の家族を中心とした誕生会等はなく,患者家族間の食品のやりとりもなかった。
しかし,M.Y.は9月7日,学校に水筒(麦茶)を持って登校し,同級生等患者5名はこれを飲んでいる。この麦茶は水出しのもので,M.Y.の母親(保菌者)か祖母(旅行者・菌陰性)が午前4時頃に作っている。当所において麦茶を作成し,分離菌の接種試験を行ったところ,接種菌数に差はあるものの,麦茶中で赤痢菌の増殖が確認された。
以上のことから,本事例は台湾旅行者S.Y.から何らかの方法で家族内に感染がおこり,さらに麦茶を介してM.Y.の同級生等に流行が拡大したものと考えられた。
愛知県衛生研究所 船橋 満 齋藤 眞 榊原 三平 松本 昌門
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