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近年,性行為感染症が多様化かつ増加しつつあり,その中の5疾患が昨年から結核・感染症サーベイランス事業の対象疾患となった。我々は大阪府立万代診療所および,あべの橋医院と協力して,淋菌の薬剤感受性調査を行っている。両診療所とも1972年頃から臨床的にPenicillinが無効の症例に気付いていたが,1978年から我々も加わってMICの測定を始め,1980年末にPenicillinase産生淋菌(PPNG)(国内感染例)を確認した。その後PPNGは次第に増加し,1982年には分離菌の20%を越える月もあったが,最近は10%台で落ち着いている。現在我々の行っている検査手順(大阪方式)を簡単に紹介すると,まず淋菌の分離培養は,試験管壁に水平に固めたGC培地を用いて両診療所で行い,同時にABPCディスクを培地の上方に置いて感受性をスクリーニングし(K.Oosato et al, Genitourinary Med. 62:158-162, 1986)公衛研で純培養とNitrocefinによるβ‐Lactamase(以下β‐L)産生能の確認を行い,保存液(スキムミルク10%,ブドウ糖3%,シスチン0.1%)で濃厚菌液を作りMIC測定時まで−20℃で凍結保存している。MICの測定はヘモグロビンの代わりにIso Vitale X(BBL)を1%加えたGC培地(Difco)を用い表(本月報20ページ参照)に示した薬剤について実験している。
1979年から1986年までの分離菌に対する各種薬剤のMICの分布をβ‐L産生の有無別に表に示した。
Penicillin-GおよびAmpicillinのMICはβ‐L産生菌の場合8r/l以上に,非産生菌では4r/l以下0.031r/lの範囲で,分布が明確に分かれている。AugmentinはAmoxillinとβ‐Lの作用を阻止するClavulanic acidとの合剤(2:1)で,β‐L産生菌の場合でも4r/l以下に分布し,臨床的にも極めて有効である。
CephaloridinのMICはβ‐L産生菌で1〜64r/l,非産生菌では少し低いが0.5〜32r/lに分布して臨床的にも効果が一定していないといわれている。CephoxitinのMICは両者とも4r/l以下で臨床的にも有効であるが,注射薬であるため日本では常用されないようである。
Tetracycline系はPenicillin系とは違ってβ‐L産生菌と非生産菌とも4r/l以下とほぼ同様の分布を示し,MinocyclineはTetracyclineやDoxycyclineよりもさらに1/2〜1/4低いMICであった。
Aminoglycoside系ではKanamyucin, Spectinomycinともに同じ範囲のパターンを示し,16r/lに集中している。最近Spectinomycin高度耐性淋菌の報告が散見されるが,大阪ではまだみとめられない。
ピリドンカルボン酸系もβ‐L産生菌,非産生菌ともほぼ同様で,OfloxacinのMICは0.008〜0.25r/l,Enoxacinのそれは少し高く0.016〜1r/lである。
これらの菌株の中には少数ではあるが咽頭や肛門由来株があり,また,同一人からβ‐L産生菌と非産生菌が同時に分離された症例もあった。後者の場合は,大阪方式で分離培養時,ABPCディスクの周辺の発育阻止帯中に集落が点在していたために気付いたもので,1集落のみを釣菌していたのでは,特にβ‐L非産生菌が優勢に発育した場合β‐L産生菌を見落とすことになる。臨床的に,十分治療した後に再発(再感染ではなく)することがあるようで,検査側として留意しておく必要がある。
最近はピリドンカルボン酸(PyCa)系薬剤の使用が増加している。Penicillin系は梅毒にも有効で淋病治療時に,同時に感染している梅毒の発症をも阻止する可能性があるが,PyCa系にはその期待はできないようであり,暫増しつつある梅毒の動向が気がかりになる。一方,咽頭の淋菌には,Penicillin系の効果が期待できないといわれており,今後は咽頭培養を積極的に行ってPyCa系の咽頭淋菌除菌効果(髄膜炎菌にも適用できる可能性があり)の検討を考えている。いずれにしても,PyCa系薬剤耐性淋菌の出現を注意深く監視する必要がある。
大阪府立公衆衛生研究所 原田七寛 勝川千尋 勢戸和子
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