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Vol.9 (1988/8[102])

<国内情報>
福井県の小学校で食中毒様症状を呈して集団発生した非定型ロタウイルス感染症


 1988年4月13日,小学校医をしている福井市内の一小児科医より腹痛,嘔吐などの症状を伴う患者が校下に急増しているとの情報が入った。一方,所轄保健所が県厚生部と連絡し調査したところ,同じ症状の患者が他の6小学校にもみられた。これらの小学校(うち一校は中学校を併設)はいずれも同一給食センターで調理された給食を受けているので,学校給食を原因とする食中毒の疑いが濃くなり,ただちに関係機関の連絡の下,疫学調査と検体採取が行われた。この給食センターは7小学校と5中学校に配食しているが,小学校と中学校では献立が別で,5中学での発生はなかった。また,有症者は小学校の新一年生(給食はまだない)を除く児童生徒と先生のみにみられたことから,小学校用献立の給食による食中毒と推定された。

 患者の発病日は4月13日,14日の両日に集中しており,15日にほぼ終息状態になった。その後の患者発生はみられなかったので単一暴露によるものと推定された。給食は11日から始まり,原因となった給食が11日のものか12日のものかは特定できなかった。喫食児童3102名中675名(21.1%)が発病し,主な症例は腹痛(46.0%),嘔吐(44.6%),嘔気(41.3%),発熱(41.1%),下痢(27.6%)で,熱はあまり高くなく,全般に軽症であった。

 有症者(児童と先生)26名と給食センター従業員56名から採取した便および給食材料について,細菌およびウイルスの検査を行った。患者材料,食品,水等から原因と思われる病原性細菌(約10種類)は検出されなかった。ウイルス検査ではアデノウイルスとエンテロウイルスの培養細胞による分離を試みたがすべて陰性であった。また,R−PHA法(デンカ生研製)によるロタウイルスの検出も陰性であった。一方,ネガティブ染色による電顕観察で児童16名中13名(81.3%),先生4名中3名(75.0%)の便に70〜75nmの二重殻を持ったウイルス粒子を確認した。なお,従業員5名は陰性であった。この粒子はロタウイルスの形態を有していたことから,非定型ロタウイルスの可能性が示唆されたため,IAHA法,ELISA法で定型ロタウイルスでないことの再確認と,SDS−PAGEによるRNAの解析を国立予防衛生研究所ウイルス中央検査部と共同で行った。また,一部の材料は愛媛衛研・大瀬戸氏に送り,同定を依頼した。12名の患者便を用いたRNA解析ではすべてが定型(A群)ロタウイルスのRNAパターンとは異なるC群ロタウイルスとほぼ同様の泳動パターンを示した。このウイルスが今回流行の起因ウイルスかどうかを確認するため,採取した6名の患者ペア血清と回復期のみ採取できた7名の血清について,免疫電顕法を行った。その結果,ペア血清の得られた6名の患者中5名の回復期血清と,回復期血清のみの患者7名中6名の血清でウイルス凝集像が確認された。さらに,患者ペア血清と愛媛衛研分離C群ロタウイルスとの免疫電顕法でも同様な結果が得られた。また,C群ロタウイルスを抗原としたIAHA法でも,急性期から回復期にかけて16倍以上の抗体上昇がみられた。これらの結果から,今回7小学校にまたがって同時発生した,食中毒様集団感染症の起因ウイルスはC群ロタウイルスと結論した。現在,C群特異抗血清との免疫電顕法による確認を行っている。

 C群ロタウイルスによる患者発生報告は現在のところ,国内外を通して散発例のみであり,本事例のような集団発生はその意味で非常に珍しく,今後の動向を監視して行きたい。なお,患者発生がみられた7小学校の共通点は給食のみであったが,原因食品あるいは感染経路等については残念ながら特定できなかった。



福井県衛生研究所 松本和男 小林桂子





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