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サルモネラは1982年の分類の変更で,それまで多様化していた各菌種をSalmonella choleraesuisの1菌種に包括し,生物学的性状によりさらに7亜種に区分整理がおこなわれた。これら亜種は血清型別で2,000以上に細分化されている。
このように多数の血清型に分かれるサルモネラは,夏場を中心とする食中毒の代表的な原因菌であり,また散発的な下痢症の主要病原菌として,毎年各地で多数の発生が報告されている。またサルモネラ血清型の中には,チフス等の伝染病の原因菌も含まれており,公衆衛生上見過ごすことの出来ない病原菌の一つである。今回は,最近各地で検出され注目されてきているサルモネラの一血清型Salmonella hadar(S. hadar)について,その概要を紹介する。
環境由来サルモネラの血清型:広島市における過去4年間の下水等の環境材料から高頻度に検出されたサルモネラの血清型を表1に示した。各年度間のサルモネラ検出数および主要血清型をみると,昭和59年度は87株で,S. infantisをはじめとする26の血清型,60年度は74株で,S. typhimuriumをはじめとする27の血清型,61年度は76株で,S. typhimuriumをはじめとする26の血清型,62年度は55株で,S. hadarをはじめとする25の血清型であった。その他の主要血清型はS. agona,S. litchfield,S. schwarzengrund,S. tennessee,S. enteritidis,S. braenderup,S. cerroおよびS. livingstone等であった。S. hadarを除いたこれら血清型は,毎年検出される常連の血清型であった。特にS. typhimurium,S. infantisは,従来から広島県内における患者由来サルモネラの主要血清型として知られている。一方,S. hadarは過去に58年度と61年度にそれぞれ1株が環境材料から検出されたのみであった。しかし,62年度は環境材料から13株,食中毒事例から2株,ヒト散発下痢症例から3株および食品(鶏肉)から1株の計19株のS. hadarが検出された。
国内におけるS. hadarの検出状況:昭和54年から61年にかけて病原微生物検出情報がとりまとめた全国の地方衛生研究所・保健所および医療機関におけるヒト,動物,食品および環境からのS. hadarの検出状況を図に示した。S. hadarは55年まで検出されていなかったが,56年に2株と58年に4株検出されて以来増加傾向がみられ,61年には83株に達した。61年のサルモネラ総検出数は6,922株で,血清型別はS. typhimuriumの1,090株(16%)を筆頭に122の血清型に及んでいる。S. hadarは,サルモネラ総検出数の1.2%を占め血清型順位は18位であった。
中国・四国地区におけるS. hadarの検出状況:中国地区5機関および四国地区2機関の衛生研究所で取扱ったS. hadarの62年度(一部61年度を含む)の検出状況を表2に示した。中・四国7機関におけるサルモネラ総検出数は834株で,このうちS. hadarの占める割合は77株(9.2%)で,すべての機関から検出されている。このような検出状況からみて,62年以降の国内におけるS. hadarの検出数は,前年と比べさらに増加するものと予想される。
国内で増加している本菌について,諸外国での検出状況をみると西ドイツ,イギリスにおいて,1976年頃からS. hadarの急増が報告されている。1983年のアメリカにおけるS. hadar検出数は325株で,前年と比べて126%の増加であった。このようにわが国では,ヨーロッパやアメリカの検出状況と比べて数年の遅れがみられている。
本菌の汚染源,汚染経路はいまだ明らかにされてはおらず,これらの究明は残された課題である。今後とも増加傾向が伺える本菌の動向把握は,疫学上重要であり,継続的な監視体制の強化が望まれる。
広島市衛生研究所 山岡弘二,岸本亜弓,伊藤文明,萱島隆之,岡 新,荻野武雄
表1.広島市における環境由来サルモネラの主要血清型
図.全国の地方衛生研究所,保健所および医療機関におけるS. hadarの検出状況
表2.中国・四国地区の衛生研究所におけるS. hadar検出状況 62年度(一部61年度を含む)
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