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Vol.9 (1988/10[104])

<国内情報>
コレラ菌の稲葉抗原因子(C)をもつVibrio cholerae non-O1(Serogroup Hakata)について


昭和57年9月大阪検疫所の定期海水検査でコレラ菌混合(O1)血清および小川型特異血清に強く凝集する海水ビブリオが分離され,その分類学的および血清学的な検討がなされた。これらの菌株は既知のビブリオには該当せず海水ビブリオbioserogroup 1875と仮称された1)。一方,該菌の原株(1875 Original)からコレラ菌のO抗原変異と同様に,稲葉型特異血清に凝集するが,小川型のそれに反応しない変異株(1875 Variant)が得られた。Bioserogroup 1875とコレラ菌との交差吸収テストの結果から,コレラ菌に特有な抗原はA因子のみであり,BおよびC因子は必ずしもコレラ菌に特有な抗原とはいえないことが証明された。また,bioserogroup 1875の主抗原はDで示された(図1)。いままでコレラ菌の抗A抗原因子特異血清は作製できなかったが,コレラ菌抗血清をbioserogroup 1875で吸収することによって,それが可能となった。

最近,魚介類,河川,海水およびヒトの下痢便からコレラ菌混合(O1)血清および稲葉因子血清にやや弱く凝集するVibrio choleraeが分離され,その同定に多少の問題を起こした。

該菌はコレラ菌のAおよびB因子血清には凝集しなかったが,C因子および前述のbioserogroup 1875の主抗原であるD因子血清に凝集を示した。該菌はその代表菌株が分離された地名に由来してserogroup Hakataと仮称された2)。

Serogroup Hakata菌株は抗C因子血清に凝集を示すものの,その凝集素価はコレラ菌稲葉型に対するそれと比べてその1/4程度であった。しかし,C因子血清を該菌株で吸収するとすべての凝集素は完全に吸収された。一方,serogroup Hakataはbioserogroup 1875とC抗原とは異なる共通抗原をもっていたが,交差吸収テストの結果から両者にはそれぞれに特異的な抗原が存在することが判明した。また,該菌がC因子を保有し,AおよびB因子を欠くことは,モノクローナル抗体試薬(デンカ生研)によっても確認された。これまでserogroup HakataはO1血清および稲葉型因子血清に凝集を示すことから,コレラ菌稲葉型と同定されてきた。しかし,該菌はコレラ菌のC抗原因子をもつものの。コレラ菌の主抗原であるA抗原因子を保有せず,かつ該菌特有の主抗原(F)をもつことから,今後serogroup HakataはV. cholerae non-O1として取り扱う。

いままでに分離された該菌32株はすべてELISAおよびRPLA法によってはコレラ毒素の産生は認められなかった。

一方,最近V. fluvialis のO19がbioserogroup 1875 VariantのO抗原とまったく同一であることが報告されている3)。

前述したビブリオの抗原式およびスライド凝集テストの要約を表に示す。

参考文献

1) Shimada, T., Sakazaki, R.& Oue, M. (1987):J. Appl. Bacteriol., 62, 453-456.

2) Shimada,T.& Sakazaki, R. (1988):ibid., 64, 141-144.

3) Shimada, T., Sakazaki, R. & Tobita, K. (1987):Japan. J. Med. Sci. Biol., 40, 153-157



国立予防衛生研究所・細菌部 島田俊雄


表.コレラ菌,Bioserogroup 1875, V. cholerae serogroup HakataおよびV. fluvialisO19の抗原構造式および各因子血清とのスライド凝集テスト
Fig. Hypothetical picture of antigenic formulae of V. cholerae O1 and bioserogroup 1875





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