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日本の1987/88シーズンのインフルエンザは流行のピークが2月末となり,過去10年間では最も春側にズレた流行となった。患者発生は全国的だが,全体としては小規模流行の範囲であった。A香港(H3N2)型およびB型が4:6の割合で分離された。
厚生省結核・感染症対策室に報告された集団発生報告(図1)によると,このシーズンの集発は10月に始まり,年内はきわめて低調に推移した。流行は1月第3週以降関西を中心に2月最終週をピークとして3月末まで全国的に進行した。発生数は合計57万人で,これは過去最低であった前年の5倍にあたる。一方,感染症サーベイランス事業においては昨年度からインフルエンザ様疾患の全国的集計を開始した。報告数は上記傾向と一致して第10週がピーク(一定点当たり29.78人)となった(図2)。前年のピークは第4週で,一定点あたり年間報告数は102.32人であったのに対し,本年は172.28人(第39週までの累積)と,昨年の1.7倍に増加した。患者年齢別では5〜9歳および10〜14歳群の患者が増加している(表1)。したがって,上記2集計における前年比の差から,今回は前年よりも集発が多かったといえるだろう。
1987/88シーズンの流行ウイルスとしては,5〜7月に四国,九州地方でB型の集発がみられたために,B型ウイルスの流行が予想されていた。
ウイルス分離は,10月以降A(H3N2)型に始まり,やや遅れて12月からB型が検出された。A(H3N2)型が2月をピークにその後現象したのに対し,B型のピークは3月であった(表2)。分離報告数は675および1,039で,4:6の比でB型が多かった。このシーズン中,A(H1N1)型ウイルスは4〜6月に6株分離報告された。
ウイルスが分離された年齢は患者集計と一致して両型とも10歳以下が85%以上を占めた(表3)。しかし,型別に5〜9歳と10〜14歳の占める割合を比較すると,A(H3N2)型は10〜14歳群が多い(32.0%と37.0%)のに対し,B型では5〜9歳群が多かった(40.4%と30.0%)。
国立予防衛生研究所ウイルスリケッチア部ウイルス3室でフェレット感染血清を用いて実施した分離株の抗原分析の結果(表4および5)によれば,A(H3N2)およびB型ともに分離株はそれぞれ3群の変異株に分類された。両型ともこの年のワクチン株で代表される群の割合は低く,それぞれ28.8%および9.7%であった。これに対し,やや変異のみられる株が主流を占めた点は両型とも同様で,それぞれ,55.6%および67.7%がこれに属した。さらに,これよりも変異の大きい株がそれぞれ15.6%および22.6%分離された。
インフルエンザ分離例について報告された発熱,上気道炎以外の主な臨床症状はA(H3N2)およびB型で差はなく,胃腸炎9〜11%,関節筋肉痛9%,下気道・肺炎3〜4%,角・結膜炎1〜2%であった。ウイルス分離は発育鶏卵による報告が16〜17%,細胞による報告が86〜87%で,両型間で差がなかった。
1988/89シーズンについては,10月福島県でB型,11月札幌市および神奈川県でA(H1N1)株の分離が報告されている
(本号参照)。
また,世界では南半球で6月以降A(H1N1)が多発している
(本号参照)。
図1.インフルエンザ様疾患患者発生状況(インフルエンザ様疾患集団発生報告週報:厚生省結核・感染症対策室)
図2.全国一定点医療機関当たり患者発生数(感染症サーベイランス情報)
表1.年齢群別インフルエンザ様疾患患者発生状況(厚生省感染症サーベイランス情報)
表2.月別住所地別インフルエンザウイルス検出状況(1987年8月〜1988年7月)
表3.年齢群別インフルエンザウイルス検出状況(1987年8月〜1988年7月)
表4.1987/88インフルエンザシーズンに分離されたA(H3N2)型とB型分離株の抗原分析
表5.1987/88インフルエンザシーズンに分離されたウイルス総数と変異種の割合
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