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Vol.10 (1989/2[108])

<国内情報>
シンガポールから東京に輸入のコクサッキーA24変異株による結膜炎症例


51歳東京在住の女性。団体海外ツアーに娘と2人で加わり,昭和63年9月26日出国,同日深夜シンガポールに到着した。翌27日市内を観光し,28日は早朝からゴルフを楽しんだ。その際,両眼に泥が飛入し,クラブハウスで洗ったが,左眼に違和感が残った。29日起床時,左眼に眼瞼腫脹,ちくちくする痛みと眼脂が自覚され,頭痛と微熱が伴った。現地医師の往診を受け,デキサメタゾン・ネオマイシン合剤点眼薬を処方された。同日夕刻には右眼にも同様症状が現われた。旅程を変更して10月1日早朝成田着帰国し,ただちに同愛記念病院眼科を受診した。

両眼に結膜充血があり,眼脂分泌を認めた。下瞼結膜に明らかな濾胞形成があり,上瞼結膜には乳頭増殖と軽い濾胞形成がみられた。球結膜下出血があり,上皮性角膜炎と前房の炎症所見はなかった。耳前リンパ節の腫脹,圧痛は認めなかった。臨床診断は急性出血性結膜炎(AHC)とした。結膜嚢から細菌培養とウイルス分離を試みた。いずれもぬぐい液でなく綿棒で眼脂を含めた結膜擦過物をとって検体とした。オフロキサシンとフルオロメトロン0.1%の点眼を指示した。

以後,患者の再来はなく,電話連絡であるが,初診翌日から眼脂は減り,自覚症状は4〜5日で,また充血は1週間以内で消失したという。10月2月に娘に結膜充血と眼脂が起こり,同じ疾患と考えたが,軽く経過して3日で治ったとのことであった。ツアー参加者と後日会談したが,同様の結膜炎を経験したものはなかったという。

検査結果としては細菌は陰性。SRLに依頼したウイルス培養からはエンテロウイルスが分離され,中和反応によってCA24変異株と同定された。本症例の感染機会は明確にできないが,潜伏期は1〜2日と考えられ,臨床所見とともに従来からCA24変異株によるAHCとして報告されているところと同様である。AHCのもう1つの病原ウイルスであるエンテロウイルス70と異なって,CA24変異株は東南アジアに始まり,台湾,沖縄と迫りながらまだ本邦本土では大きな流行を起こしていない。しかし,今回のような輸入症例が発端となって流行が発生する可能性は十分に考えられる。



同愛記念病院眼科 内田 研一,松元 俊





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