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栃木県岩舟町のI中学校の2年生290名が,昭和63年10月31日に県南に位置する渡良瀬遊水池へ日帰り遠足に行き,周辺堤防にて昼食をとるため1時間半程度の休憩をとった。その後11月7〜10日にかけて発熱・発疹を呈する生徒が2名現われ,近くの病院で受診した。病院では,恙虫病を疑い当衛生研究所に血清検査を依頼し,その結果(表1)と併せて2名とも恙虫病を診断した。
当該地域管轄保健所の疫学調査によると,感染地域は2名とも渡良瀬川遊水池の堤防付近と推定された。患者の臨床症状は,2名ともに発熱・発疹を認めたが,リンパ節腫脹は認められなかった。刺し口は膝の裏および大腿部にそれぞれ1ヵ所づつ2名に認められた。
以上のことから,この事例は2名が同時に同地域で感染したと考えられる珍しい事例であるため,当該地域を対象に恙虫病に関する実態調査を行ったので以下に概要を記す。
野ネズミ捕獲:昭和63年12月5〜6日にシャーマントラップ60個を仕掛け15頭を捕獲した。そのすべてがアカネズミであった。
野ネズミからのRt分離:ddy系マウスを用いて腹腔内接種法を行った結果,15頭中10頭(66.7%)からRickettsia tsutsugamushi(Rt)を分離した。
野ネズミのRt抗体保有率:抗原に標準3株を用いてCF法を行った結果,14頭中13頭(92.9%)にRt抗体の保有を認めた。
ツツガムシ幼虫の同定:15頭の野ネズミから採取したツツガムシ幼虫は,総数836匹であり,3属6種に分類された(表2)。
本県では,昭和61年度から県内における恙虫病に関する侵淫調査を目的に,野ネズミおよびツツガムシ幼虫からのRt分離,住民のRt抗体保有検査等を実施している。その結果,各地域において侵淫が確認されている。ことに今回の調査で,当該地域は他の地域に比べRtの侵淫が顕著であり,恙虫病に感染する危険性の高い地域であることが推測された。
なお,本例の推定感染地域においては,昭和61年にも1名の感染患者が届けられており,今回で3名の恙虫病患者の発生が認められていることから,今後とも同地域におけるツツガムシの生息実態を継続調査する予定である。
栃木県衛生研究所 真尾 仁志,小野口 勝巳
表1.患者の血清学的診断結果(IP抗体価)
表2.野ネズミに寄生していたツツガムシ幼虫の分類
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