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Vol.10 (1989/5[111])

<国内情報>
長野県の小学校で発生した小型球形ウイルスによる集団かぜ


 1988年12月1日,飯山保健所管内のI小学校に,嘔吐,腹痛,発熱を主症状とする集団かぜが発生した。病原検索の結果,小型球形ウイルス(SRV)が電顕法により患者ふん便から検出された。免疫電顕法とWestern blot(WB)法による確認診断により,患者血清に有意な抗体上昇が認められたので,その概要について紹介する。

 患者の発生状況および臨床症状は管轄保健所の調査によった。11月下旬から患者が発生し始め,12月2日にピークとなり,在籍者744名中患者数248(33.3%)となった。12月6日には患者数193名(25.9%)に減少したが,以降12月下旬まで20〜50%台の患者が認められ,終息がはっきりしない流行であった。患者の症状は発熱が61.0%,はき気・嘔吐が58.5%,腹痛が53.7%であり,せき(43.9%)と下痢(34.1%)は比較的少なかった。発熱は37〜38℃台の軽熱を訴えた者が81.3%であった。細菌検索は保健所で実施し,既知の病原は検出されなかった。また,細胞培養により呼吸器系ウイルスやエンテロウイルスの分離を試みたが陰性であった。電顕法により,音更ウイルスに類似した32〜35nmのSRVが,4名中2名の患者ふん便から検出された(表)。病原としての確認をするため,粒子数の多かったbQの検体を抗原として免疫電顕法を実施した。血清を100倍希釈したためか抗体付着量が少なかったが,5名中4名に有意な抗体上昇が認められた。さらに,確信を得るためWB法による確認診断を予研に依頼した。その結果,5名中4名の回復期血清に分子量58Kの染色バンドが認められ,有意な抗体上昇と判定され,病原としての裏付けがなされた。

 今回の事例は,インフルエンザ流行前に集団かぜとして取り扱われており,搬入された検体数も少なく,病原としての確認は難しかったが,SRVが起因した流行と考えられた。免疫電顕法による確認診断は繁雑で,ウイルス粒子を多く必要とする難点があるが,WB法は抗原量が少なくてすみ,SRVの究明に有用な方法と思われる。



長野県衛生公害研究所 西沢 修一,中村 和幸,小山 敏枝
長野県飯山保健所   赤沼 益子
国立予防衛生研究所  宇田川 悦子,山崎 修道


表 長野県内のI小学校における集団かぜのウイルス検索成績





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