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Vol.10 (1989/5[111])

<国内情報>
サルモネラにおけるプラスミドプロファイルの疫学応用


 近年,細菌の新しい標識法として注目されているものにプラスミドプロファイル解析がある。東京都においても,一昨年より本法をサルモネラ食中毒の疫学解析に導入し,検討を進めてきているが,ここでは,これまでS. TyphimuriumおよびS. Hadarの食中毒事例について検討した成績の概略を紹介し,参考に供したい。なお,プラスミドの検出はKadoの方法により,また,そのプラスミドプロファイルの解析はアガロースゲル電気泳動法で行った。

S. Typhimuriumについては,1979〜87年までに都内で発生した計12事例につき検討した。このうち2事例はプラスミドを保有しない菌によるものであったが,残りの10事例はすべてプラスミド保有株によることが確認された。この10事例由来株のプラスミドプロファイルは,1種のものから2種以上複数のプラスミドを持つものまで7種に分類されたが,同一事例内で異なるプロファイルを示したものはなく,また,特にプロファイルのうえから問題となる事例は観察されなかった(表参照)。すなわち,各事例とも分離株と事件の因果関係がプラスミドプロファイルのうえからも証明された。

 一方,S. Hadarについては,これまで他県の分も含め,計7事例について検討した結果,その4事例がプラスミド保有株によるものであった(表)。4事例由来のプロファイルは3種に分類可能であったが,S. Typhimuriumと同様,同一事例の患者,推定原因食品など事件関連株のなかで異なるパターンを示したものは皆無であった。なお,事例13では,原因施設の調理従事者からも同一血清型菌が検出され,事件との関連が示唆されたが,プラスミドプロファイルの解析で事件とは無関係であることが証明されたものである。

 以上の成績は,サルモネラにおいてもそのプラスミドプロファイルが疫学解析において有用な手段となることをよく示すものであろう。



東京都立衛生研究所 楠 淳,太田 建爾


プラスミド保有S. Typhimurium及びS. Hadarによる食中毒事例





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