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Vol.10 (1989/5[111])

<国内情報>
1988年中に認められたヒトのリステリア症


日本におけるヒトのリステリア症(L症)は,1958年の8月に山形県で髄膜炎患者および11月に北海道で胎児敗血症患者から独立に症例が報告された。日本での初発症例以後,永井龍夫博士(札幌中央検査センター)は菌分離および血清型別を行い,併せてその背景を知るため基礎データを収集してきた。当研究所もリステリア菌(L菌)の血清型別が可能な機関として協同してL症のサーベイランスを行ってきている。

 近年,諸外国では食品を介して大規模のL症の集団発生が認められ重大な関心を呼んでおり,日本でも食生活の相違があるものの,集団発生の可能性が十分に考えられることから,1988年中に認められたヒトのL症を中心にして,初発症例から1988年までの629症例の概要を紹介し,L症の重要性を改めて喚起したい。

 1988年中には日本各地で19症例が認められた。患者の発生地は本州各地,四国,九州および沖縄と全国に分布している。患者の性別は,男性12例,女性7例で,年齢別では,新生児4例,乳幼児5例および成人10例であった。病型別では,髄膜炎10例,敗血症6例,胎児敗血症,髄膜脳炎および肺炎各々1例で,10例が基礎疾患を有していた。患者の転帰は,治癒11例,死亡8例で,成人の死亡例6例のうち5例は慢性骨髄性白血病,慢性肝炎,肝硬変および,慢性腎不全および肺気腫等の基礎疾患を有する患者であった。

 このように各種の基礎疾患を持つ患者の死亡率が高く,60%にも達する。分離L菌の血清型は,1a型5株,1b型5株,4b型9株に型別された(表1)。

 日本におけるL症は,1958年に初発症例が報告されて以来,散発的ではあるが,毎年報告され,1988年まで累計629症例に達する(図1)。患者の性別は男性356例,女性272例,不詳1例で,年齢別では新生児および乳幼児294例,満20歳以上の成人は304例である。6歳から19歳の症例数は31例と極めて少ないのが特徴的である(図2)。患者の病型別では,髄膜炎が圧倒的に多く,次いで敗血症,胎児敗血症および髄膜脳炎で,全体の97.7%を占める。患者の転帰は,治癒441例,死亡188例で致命率29.9%であるが,成人では白血病,肝硬変および糖尿病等の基礎疾患をもち免疫機能の低下している患者の死亡率が高く,致命率は43.1%である。血清型では1b型が29.9%,4b型が58.2%と両菌型で88.1%を占めており,L症の二大菌型と言える(図3)。

 本菌の感染形態は一種の母子感染の様式をとる場合も考えられることから,今後,感染源としてヒトの保菌,食品との関連が注目される。



新潟県衛生公害研究所 寺尾 通徳


表1.1988年リステリア症
図1.ヒトのリステリア症発生状況
図2.ヒトのリステリア症(年令別)
図3.分離リステリア菌の血清型別頻度





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