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鳥取県で無菌性髄膜炎の流行が始まり大流行の様相をみせている。
サーベイランス患者情報では,2月2名,3月15名,4月55名の報告があり,5月に入っても4月と同様,あるいはそれ以上の患者発生がみられるようである。
5月22日現在の発生状況の特徴および検査結果をみると,
1.患者発生は鳥取県東,中,西部の3地区のうち中部地区に集中してみられる。
2.同胞感染,家族内感染が往々にしてみられ,成人の発生も少なくない。
3.年齢分布を表に示した(小児科91例,成人については検査受入人数)。6歳を中心に幅広い年齢層でみられる。成人は家族内感染によるものが多い。
4.今までの髄膜炎の流行時期は7月,8月をピークとするものが多いが,今回の流行開始時期は3月下旬であり非常に早い。
5.症状は,他のウイルス型による髄膜炎と大差はないが,発疹を伴う例が多い。
6.今までに38名の咽頭,便からFL,Vero,RD-18Sの3細胞でウイルス分離を行った。38名のうち23名からRD-18Sでウイルスが分離され,このうち20名はエコーウイルス4型(E4)であった。3名については同定中である。この他に分離中のものを含めるとE4らしい分離株が51株ある。RD-18Sでは2,3日目から急激なCPEの広がりをみる。FLでは2株分離できたが,CPEは明瞭でなく1週間以上の日数を要する。
7.同定はエンテロプール血清で行ったが,現在用いているものではO血清(E-24)でCPEの出現が遅れる。E4単味血清(予研分与)の25単位,50単位を用いた中和では両方で良く中和された。本ウイルスは1964,1965年に流行がみられ,MK細胞を用いて分離されており,Break through現象がみられたことが記載されているが,今回はみられない。
8.38名のうち9名が発疹を伴い,うち6名からE4が分離されている。
9.髄膜炎流行地区では,同時に発疹症の流行もみられ,12名について分離を行ったところ,9名からウイルスが分離され,6名がE4であった。3名についても同定中であるがE4のようである。発疹は,風疹様あるいは伝染性紅斑様とされるが,特に顔面の発疹に特徴があるようである。すなわち,伝染性紅斑でみられる部位に風疹様の風疹よりやや小さい丘疹がみられる。発疹は手足に及ぶことがある。
10.E4による髄膜炎は世界各地で報告され,1964年,1965年には日本でも大流行している。日本の流行を含め発疹を伴うものは少ないが,今回の流行では発疹を伴う例が多いこと,発疹症にとどまる例も多いことが大きな特徴である。流行地域の上気道炎,咽頭炎等熱性疾患からはほとんど分離されない。Kaplanらの報告(Amer J. Epid. , 96 ; 74,1974)と今までに得られた情報をもとに比較してみると,今回の鳥取県での流行では図のような感染パターンになるのではないかと推定される。
11. 今のところ他地区(東,西部)では流行の兆しはなく,E4らしいウイルスも分離されていない。西部ではFL+,Vero+,RD(−)のコクサッキーB5型,東部ではFL+,Vero(−),RD+の未同定のウイルスが分離されている。コクサッキーB5型も髄膜炎の原因ウイルスの1つであり,時期,地区を変えての流行が危惧される。
鳥取県衛生研究所 石田 茂 川本 歩 本田 達之助
表.鳥取県における髄膜炎患者(5月中旬まで)の年齢分布
図.E4流行における感染のパターン
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