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Vol.10 (1989/9[115])

<国内情報>
1989年冬季に青森県で発生したカキ関連・SRVによる非細菌性食中毒様事例


 最近,非細菌性急性胃腸炎あるいは原因不明集団食中毒の原因として,SRVの検出頻度の高いことが報告されている。青森県でも「カキ」が関連し,病因としてSRVの関与が疑われた3件の集団食中毒例を経験したのでその概要を報告する。

 なお,SRVの検索は青森県ではまだ検査体制が整っていないことから,糞便の電子顕微鏡(EM)による検索および患者血清のウエスタン・ブロッティング法(WB)による抗体検査は宮城県保健環境センター(北海道東北新潟支部エンテロウイルス支部センター)が担当した。

 EMの検索は通常の方法で,WBは「下痢症ウイルスの診断とリファレンスに関する検討委員会」の方法により,WBでHawaii関連因子であることが証明されている宮城'84とよび東京都立衛生研究所・安東先生から分与していただいた東京'85の2種類の抗原を使用して行った。

 1989年1月から7月までに青森県衛生研究所が調査した食中毒事例は,事例の範囲が同県外に及ぶものも含めて20件であった。これらのうち,原因菌を特定できなかった例は9件と例年になく多いものであった。

 原因菌を特定できなかった9件のうち,何らかの形でカキの関与が推定された例は5例で,このうち3例は疫学調査で「酢ガキ」の喫食に有意関連が認められた(表1)。

 表1にこの3事例の概要を示したが,発生時期は冬季に集中し,症状は3事例ともおおむね共通して,嘔気,嘔吐,下痢,腹痛が主であった。症例によっては嘔吐5〜6,下痢10,粘液便10/日と多く,水様便の例もみられた。下痢は若年層(事例2:養護学校生徒)より成人層(事例1,3)に多くみられた。発熱は37〜38℃であり,推定潜伏時間は37〜46時間であった。有症期間は短く,いずれも2〜3日以内に快癒し,予後も良好であった。

 EMによるSRVの検索は12件の糞便について行ったが,SRV様粒子は事例1,3の計4件に観察されたのみであった。しかし,この4例はいずれも粒子数が少なく,形態学的な同定には至らなかった。

 WBによる抗体検査は10対の血清について先に述べた2種の抗原を使用して行った。その結果,いずれの抗原に対しても事例1では1/3,事例2では2/3,事例3では3/4に有意な抗体の上昇が観察された。このことから,これら3つの事例はいずれもWBにより,Hawaii関連因子による集団胃腸炎と考えられた(表2)。

 今回の一連の事例では,SRVへの対応が充分でなかったこともあり,ウイルス検索に必要な早期病日の糞便採取が大幅に遅れ,かつ量的にも充分とはいえなかった。

 同様な疾病に対する検体採取,疫学調査などは関係機関相互の情報連絡の周知徹底が望まれ,今後の課題としたい。



青森県衛生研究所 豊川 安延,佐藤 允武,佐藤 真理子
青森保健所 三星 陽子
宮城県保健環境センター 梅津 幸司,山本 仁


表1.カキが関連した食中毒(疑い)原因不明事例の発生概要
表2.青森県における非細菌性集団胃腸炎の検査結果(1989年)





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