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恙虫病リケッチア(Rt)は株間の交差反応が強く,一般の免疫血清では型別が困難なケースがしばしば認められる。そこで著者らは標準株(Gilliam,Karp,Kato)に対するモノクローナル抗体を作成し,静岡県内で分離されたRt株の型別を試みたので,その概要を述べる。
得られたモノクローナル抗体はGilliam株に対するものが3系統(3H5,1E1,3B6),Karp株に対するものが2系統(3C9,3G1),Kato株に対するものが3系統(1D12,1H12,3C8)の合計8系統であった。標準3株を抗原とした間接蛍光抗体法によりモノクローナル抗体の反応性をみると,抗Gilliam-3B6(Katoとも反応)および抗Kato-1H12(Gilliamに弱く反応)以外はすべてホモの抗原にのみ反応した。
型特異的と思われる3種類のモノクローナル抗体(抗Gilliam-3H5,抗Karp-3C9,抗Kato-1D12)を用いて,間接蛍光抗体法により分離株との反応性を検討した。未処理の有毛マウスを用いて分離した患者由来の2株,野ネズミ由来の82株はすべてKarp型であることが確認された(表1)。また,免疫抑制剤であるサイクロフォスファミドを投与した有毛マウスを用いて分離された患者由来の6株,タテツツガムシ由来の1株,アカネズミ由来の3株は型別に用いたいずれのモノクローナル抗体にも反応がみられなかった。そこで,これらの10株について,8系統のモノクローナル抗体との反応性を調べたところ,患者由来の2株は8系統すべてのモノクローナル抗体に反応しなかったが,他の8株は型別に用いなかった抗Gilliamモノクローナル抗体(1E1,3B6)の少なくとも1系統と反応した(表2)。
今回型別が実施された94の分離株はKarp型84株,Gilliam株に近縁なもの8株,すべてのモノクローナル抗体に反応しなかったもの2株に分類された。Karp型と同定された84株のRtはすべて未処理の有毛マウスに対し病原性を有していたが,免疫抑制マウスを用いて分離され,同定不能となった10株は未処理の有毛マウスに対して病原性を示さなかった。したがって,静岡県における恙虫病はマウスに対し強病原性のKarp型のRtおよびマウスに対し病原性が弱く,標準株の3種類とは抗原性を異にする複数のRtによって引き起こされていることが示唆された。
最近,標準株とは抗原性の異なる株が各地で多数分離されているが,これらの株の大半はGilliam株あるいはKarp株に近縁のものなので,免疫血清を使用した場合,最も強く反応した型と同定されてしまう可能性がある。しかし,モノクローナル抗体を使用することにより今回の成績のように確実に標準型に属するものか否かを判別することができる。モノクローナル抗体は,恙虫病リケッチアの型別を容易にするだけでなく,今後国内に分布するRtの抗原性を解析していく上で精度の高い手法として役立つものと思われる。
静岡県衛生環境センター 川森 文彦,秋山 真人,杉枝 正明,神田 隆,赤羽 荘資
表1.未処理の有毛マウスを用いて分離した恙虫病リケッチアの型別
表2.型別不能となった分離株の全モノクローナル抗体に対する抗体価(IFAによる)*
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