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Vol.10 (1989/9[115])

<国内情報>
感染症サーベイランス解析評価について(平成元年第2四半期)


平成元年8月8日



 1.小児科内科,病院の感染症

 概況:第2四半期の主要な動きとして,流行性耳下腺炎の流行があげられる。第1四半期に続いて,流行の最盛期に向かってさらに増加した。風しんは一昨年の大流行,昨年の流行の次の年で,少数の地域で流行がみられたのみであったが,第22週のピークの後下降に向かった。麻しんはこれまでの最低の発生で,第19週以降やや上昇傾向を示したが,その後また徐々に低下しつつある。

 このような春の流行に替わって,夏型のパターンへの移行もはじまる時期である。ヘルパンギーナは例年なみに7月のピークに向かって増えはじめた。無菌性髄膜炎は一昨年,昨年は2年続けて少ない年であったが,今年の4月から6月にかけて増加したカーブは通常の年の発生状況である。無菌性髄膜炎が県により高い発生頻度を示している点は注意が必要である。これらに対して手足口病の発生は極めて少ない。

 (1) 麻しん様疾患:1984年に大きな流行があったが,1985年に最低となり,86,87年は幾分増加した。1988年には87年よりも減少したが,本年はさらに少なくなり,発生カーブの大部分はこれまでの最低の85年をわずかに下回る程度に推移している。本年第26週までの累積報告数は7.67人で,昨年の12.07人の約3分の2で,1985年の同時期の7.86人よりわずかに少ない。発生のピークは本年第19週0.44人で,昨年のピークは第19週0.66人であった。

 ブロック別の定点当たり累積報告数をみると,東海北陸15.15人がもっとも多く,北海道12.88人,中国四国9.88人,近畿8.83人,九州沖縄6.13人,東北5.94人の順で,関東甲信越3.00人がもっとも少ない。発生状況をみると,4月から5月にかけて東海地方から近畿,中国四国の発生が増加した。これらの動きも徐々に下降しつつある。

 県別に第26週までの累積報告数をみると,10人以上は,北から,北海道12.88人,札幌市14.21人,秋田10.46人,岐阜18.00人,静岡28.87人,愛知19.74人,名古屋17.16人,滋賀19.46人,大阪府16.19人,大阪市15.97人,広島10.17人,香川49.57人,佐賀25.28人で,いくつかの県で流行が起こっていることを示している。罹患年齢の分布は昨年までと変わらない。

 (2) 風しん:1987年の全国流行後毎年少なくなっている。流行のピーク時の発生は1987年第22週10.71人,1988年第22週3.78人に対して,本年は第22週1.71人であった。

本年の特徴は限られた県での流行である。第26週までの定点当たり累積報告数は26.69人であるが,県別に50以上を挙げると,北海道108.09人,札幌市121.58人,岩手83.71人,福井62.37人,静岡55.79人,高知243.21人,大分70.52人,宮崎62.97人,沖縄194.85人で,特に,北海道,高知,沖縄の流行が激しかったことを示している。高知は第14週のピークに16.76人,沖縄は第15週20.85人と強い流行を示したが次第に低下している。これに対して北海道は第26週に6.89人と本年の最高の数字を示し,さらに増加する傾向をみせている。一方,定点当たり累積報告数10人以下とほとんど流行のなかったところは23都府県に及んでいる。

(3) 水痘:昨年は年間報告数定点当たり94.83人と少なかったが,今年も昨年なみの発生カーブである。4月頃に幾分下がるが,5月から6月にかけて増える傾向があり,この時期には昨年をやや上回った。第26週までの累積報告数は定点当たり62.58人で,昨年同期の60.38人なみである。

ブロック別には九州沖縄が累積報告数定点当たり96.06人で,福岡,熊本,大分,宮崎,沖縄は100人を超えている。東海北陸74.46人,中国四国70.95人,東北63.73人,北海道60.25人,関東甲信越50.61人,近畿48.49人の順である。

(4) 流行性耳下腺炎:1985年の流行の後,今年は4年目の流行の山を迎えている。1985年第29週に定点当たり3.30人のピークから次第に下降し,87年には年間を通じて週当たり定点当たり0.5人程度と最低の発生状況であった。88年5月頃から増えはじめ年末には定点当たり1.5人程度となり,本年になって第10週に2.5人まで増えたが,連休前後に多少の中だるみがあって,第22週から2.6人を超え,第26週には2.79人と最盛期の様相を示している。本年第26週までの定点当たり累積報告数は54.04人で,昨年の年間55.42人,第26週までの23.61人に比べると約2倍の発生である。

 ブロック別の定点当たり累積報告数は,東北が77.28人,九州沖縄69.73人,東海北陸66.79人,中国四国が57.50人で,関東甲信越53.36人,近畿31.86人,北海道27.26人は全国平均を下回っている。

県別に発生の多いところをみると,定点当たり累積報告数100人以上は山形146.41人,富山138.86人,愛媛109.69人,福岡127.17人で,これらの県は第1四半期から多かった。罹患年齢分布は昨年までと変わらない。

 (5) 百日せき様疾患:定点当たり年間報告数は1982年12.59人,1983年10.97人から1984年には5.51人と半減し,以後,1985年4.38人,86年6.01人,87年4.92人から1988年には2.81人と減少した。本年の発生カーブをみると,定点当たり週当たり0.03人から0.05人が続き,第26週までの累積報告数は定点当たり1.00人である。これは昨年同期の1.48人に比べると約3分の2の発生となる。

 ブロック別の累積報告数は九州沖縄2.21人,北海道1.09人,東北1.09人,東海北陸1.02人,中国四国0.89人,近畿0.78人,関東甲信越0.69人である。第26週までの定点当たり累積報告数1.5人以上をみると,青森1.60人,福井1.63人,岡山2.11人の他はすべて九州で,福岡5.15人,北九州市10.10人,福岡市6.38人が特に多く,大分3.19人,鹿児島3.58人,長崎1.53人,宮崎1.74人となっている。

患者の年齢分布をみると0歳26.8%,1歳21.3%,2歳12.2%,3歳8.9%,4歳8.8%,5〜9歳17.0%,10〜14歳2.6%,15歳以上2.3%で,昨年までに比べて1歳と2歳の占める比率が減少し,5〜9歳の比率が増えている。これが接種年齢引き下げにつながった動きかどうかは,もう少し検討する必要がある。

 病原微生物検出情報によれば,本年1月から6月までに,地研・保健所集計で8例,医療機関集計では19例の百日せき菌の分離が,合計7県(宮崎,岡山,愛知,静岡,新潟,群馬,栃木)から報告されている。

 (6) 溶連菌感染症:4〜5月に少し減り,6月に増える傾向があるが,今年は第24週定点当たり0.63人,25週0.65人,26週0.63人と,昨年が0.4人程度であったのに比べて発生が多い。昨年までの動きに比べてみても6月としては多い方に属する。しかし,全体のパターンとしては例年と大きな違いはない。

 ブロック別の定点当たり累積報告数は,北海道18.26人,東北18.65人が多い方で,次いで中国四国16.35人,東海北陸12.46人,九州沖縄10.49人,関東甲信越9.98人,近畿9.95人である。県別で多いのは山形43.89人,愛媛31.76人,秋田26.92人,大分23.41人で,全国平均12.20人の約2倍以上である。昨年同時期は11.39人で,今年はこれを幾分上回る程度である。

(7) 異型肺炎:1988年は流行のあった年で,10月頃から週当たり定点当たり0.5人を超え,11月第45週に0.86人のピークに達した後,低下した。本年に入ってからは0.3人前後が続き,流行のピーク時の約3分の2の発生が持続している。本年第26週までの定点当たり累積報告数は8.02人である。昨年の年間報告数は20.95人であった。

ブロック別の定点当たり累積報告数は,北海道2.27人,東北6.69人,関東甲信越4.65人,東海北陸13.01人,近畿7.37人,中国四国12.66人,九州沖縄10.73人と西日日本に多い傾向があり,定点当たり累積報告数15人以上の県も,福井26.00人,岐阜22.47人,島根19.67人,広島15.30人,徳島15.20人,香川18.04人,佐賀17.83人,大分22.67人,宮崎17.49人,福岡市19.00人と,中国以西に集中している。

(8) 感染性胃腸炎:昨年末の流行が強く,通常は定点当たり6,7人台の発生に対して,年末の第50週には定点当たり9.09人を示した。本年に入ってからは低下し,1月から2月には4人台で,第7週の4.74人が最高であった。その後,低下する傾向もみせたが,5月から6月にもなお横ばいの状況で,第19週には2.87人を示した。昨年も,5月から6月にかけてぶり返し小さな山を作ったが,今年も同じ時期に,東海北陸,近畿から中国四国にかけて活発化した。

 第26週までの定点当たり累積報告数は83.13人で,昨年同期の96.33人を少し下回る程度の発生となった。ブロック別の発生は,近畿100.65人,中国四国100.27人,東海北陸97.89人,関東甲信越80.98人,九州沖縄68.93人,東北50.94人,北海道27.14人である。県別に150人を超える発生をみたのは,三重193.02人,京都162.12人,鳥取159.43人,島根187.71人,大分157.37人である。

 5〜6月は,感染性胃腸炎に関する病原菌の中で,カンピロバクターの報告が増加する時期である。一方,患者情報にみられる小ピークについては,前年から小型球形ウイルスの関与が示唆されており,病原体情報の蓄積が待たれている(以下次号につづく)。



結核・感染症サーベイランス情報解析小委員会





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