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Vol.10 (1989/10[116])

<国内情報>
Salmonella血清型Enteritidisによる食中毒事例の多発−東京都


 近年,散発下痢症や集団食中毒の原因菌として分離されるサルモネラの血清型はS.TyphimuriumやS.Litchfieldなどが主流であり,S.Enteritidisによる事例はそれほど多いものではなかった。しかし,本年に入って突如としてS.Enteritidisによる食中毒事例が急激な増加傾向を示すようになった。すなわち,東京都における本菌食中毒は,過去5年(1984〜88年)間の統計ではサルモネラ食中毒事例70事例中3事例と全体の4%強を占めるに過ぎなかったが,本年(1989年)に入って5,6および7月に各1例,また8月には9事例,そして9月(25日現在)に11事例と多発し,これまでにサルモネラと推定された食中毒(苦情も含む)33事例中実に23事例(69.7%)を数える状況となった。これら23事例のうち18事例は原因施設が東京都内であったが,他の5事例は東京都以外(静岡県,栃木県,群馬県,神奈川県,千葉県)で罹患したものである。23事例中原因食品が判明したものは9事例で,それらはかつ丼,焼肉,ババロア,サラダなどであった(別表参照)。

 これらの事件が共通の汚染源によるものかどうかの手掛かりを得る目的で,現在分離菌株のプラスミドプロファイルおよび薬剤感受性パターンの面から検討中であるが,これまでに得られた成績では,その組み合わせにより4つのグループに分類され,その起源は必ずしも同一でないことが示唆された。

 一方,都立墨東および豊島病院における散発下痢症患者由来サルモネラの血清型を調査した結果を見ると,過去5年(1984〜88年)間の分離菌株757中本菌型は20例(2.6%)であったのに比べ,本年に入ってからの分離株では83例中24例(28.9%)にのぼっている。この検査成績から判断して,集団事例は氷山の一角であって,その水面下にはさらに多数の散発例が隠されていることが推察される。

全国的な背景の詳細は明らかでないが,すでに滋賀県,岐阜県,長野県,静岡県,秋田県,山形県などにおいても同菌型による食中毒集団発生が報告されており,本菌胃腸炎の多発は東京都におけるだけの現象ではないようである。

我が国では,1986年まで検出がまれであったS.Hadarが1987,88年に急増したことはまだ記憶に新しいが,この型の菌が我が国で検出されるようになった時期は,諸外国での本菌による事件の増加が報告されるようになった数年後であった。今回のS.Enteritidisの場合も1988年以降,英国やアメリカにおいて本菌による事例,特にファージ型4菌による汚染鶏卵を原因とした集団事例や,散発下痢症の増加が話題となっていることは,先のS.Hadarの例にも類似して極めて興味深い。この内外における本菌の急増の背景には共通する汚染源の介在する可能性も高く,今後の詳細な疫学調査が望まれる(東京都微生物検査情報,第10巻第8号より転記)。

 なお,分離株のファージ型別については,国立予防衛生研究所ファージ型別室が導入する予定と聞き及んでいるので,それを待って検査を依頼したいと考えている。



東京都立衛生研究所 楠 淳,太田 建爾


 東京都におけるSalmonella血清型Enteritidisによると推測される主要食中毒事例(平成元年1〜9月25日現在)





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