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Vol.10 (1989/10[116])

<国内情報>
感染症サーベイランス解析評価について(平成元年第2四半期)


平成元年8月8日



 1.小児科内科,病院の感染症(前号つづき)

 (9) 乳児嘔吐下痢症:昨年末のピークは第51週定点当たり2.16人と低く,本年に入ってからの増加も警戒されたが,第7週の1.74人を最高にそのまま低下した。

第26週までの定点当たり累積報告数は24.55人で,昨年同期の36.62人の約3分の2の発生である。ブロック別には,九州沖縄45.56人,中国四国30.90人,東北29.14人,東海北陸25.89人で,近畿19.44人,関東甲信越17.84人,北海道9.83人が全国平均以下であった。定点当たり50人以上と,全国平均の約2倍以上の発生であった県は,福岡82.17人,大分54.93人,宮崎104.29人と九州に集中している。

病原微生物検出情報においては,現在までのところ,ロタウイルスの検出報告がめだって少ない状態が続いている。

(10) 手足口病:本年の発生は極めて少ない。本年に入ってから定点当たり0.03人程度が例年なみに続き,第22週に0.1人を超え,第26週に0.27人に達しただけである。昨年はかなり強い流行のあった年であるが,第26週には定点当たり3.82人であった。

第26週までの定点当たり累積報告数は1.63人と少ない。大部分の県は定点当たり10人以下であるが,わずかに山梨16.29人,群馬8.34人,静岡の7.51人で流行がみられる程度である。そのほか,2〜3人台の県をみても,栃木2.26人,東京都2.52人,富山2.62人,鳥取2.64人,熊本2.94人,沖縄3.73人くらいである。一昨年,昨年の発生は関東甲信越ブロックが特に少なかったことと関係しているのであろう。

 4月以降検出された手足口病関連ウイルスとしては,7月末現在CA16が少数報告されているだけでEV71の報告はない。

 (11) 伝染性紅斑:1986年から87年にかけて流行があり,88年初めにはまだ流行の名残りが認められたが,本年になってからは,週当たり定点当たり0.07人から0.09人程度で落ち着いている。

第26週までの定点当たり累積報告数は2.01人であるが,ブロック別には東北3.84人,北海道2.94人,東海北陸2.65人,関東甲信越2.28人,九州沖縄1.99人,中国四国1.06人,近畿0.75人である。3人以上の県は,秋田7.67人,山形5.00人,岩手4.82人,宮城3.31人,横浜市3.51人,新潟3.65人,静岡10.26人,宮崎3.14人,沖縄4.50人で,静岡と東北の発生が目立っている。

(12) ヘルパンギーナ:本年度は第16週から定点当たり0.1人を超え,第20週から急増し,第26週2.39人に達している。このカーブは平年なみである。

第26週までの累積報告数は定点当たり9.05人で,ブロック別には東海北陸17.63人,九州沖縄12.93人,近畿9.60人,中国四国7.72人,関東甲信越5.60人,東北5.40人,北海道4.36人で,東日本の流行はこれからである。

ヘルパンギーナ関連CAウイルス群のうち7月末までに報告された4月以降の分離はCA4:24株,CA5:1株,CA6:3株で,本夏のヘルパンギーナの病因はCA4を中心として,これに他の1〜2の型がからみそうな気配である。

 (13) その他:突発性発しんは例年なみのパターンで,川崎病も特別の動きはみられない。インフルエンザ様疾患は第4週のピーク定点当たり17.86人の後は低下した。咽頭結膜炎の小児科内科定点からの報告は,第19週から定点当たり0.05人を超え,第26週0.12人になっている。これからである。

(14) 無菌性髄膜炎:脳脊髄炎,細菌性髄膜炎は特別の動きはないが,無菌性髄膜炎は4月から6月にかけて増加が目立っている。無菌性髄膜炎の発生は一昨年,昨年と特に少ない年が続いたが,本年はシーズンに向けての増加が明らかになっている。病院定点からの月報で,1月病院定点当たり0.22人,2月0.22人,3月0.38人,4月0.53人,5月0.74人,6月1.12人と増えている。6月の発生は1987年0.41人,88年0.54人と少なかったが,本年は2倍以上になっている。ピークは7月から8月にかけてなのでこれからの警戒が必要である。

 本年6月までの病院定点当たり累積報告数は3.23人で,ブロック別には中国四国6.30人,東海北陸3.30人,関東甲信越2.84人,近畿2.62人,九州沖縄2.58人,北海道0.93人,東北0.74人である。最新の流行状況をみると累積報告数は鳥取33.10人,沖縄26.00人が特に目立っており,香川14.50人,福岡市13.33人,奈良9.83人,富山9.80人,山口6.83人,新潟6.67人,神奈川6.24人は,全国平均の2倍以上で,全国的にみると県ごとの違いが大きい。

 病原微生物検出情報における髄膜炎関連エンテロウイルスの動きは例年になく早く,1月以降分離が報告されているのは,CB4,CB5,E4,E11,E30などである。特に鳥取でE4の大流行(発疹を伴う例が多い)が報じられ,さらに徳島,香川などでは冬期からE30の動きが確認されている。

 2.眼感染症

 (1) 咽頭結膜炎(PCF):1週間の報告数が一定点で平均1例以上,あるいは1週間の報告数が全体で5以上という基準で患者発生状態をスクリーニングすると,第2四半期のPCFの発生は岩手県においては18週から22週にかけて継続的にみられた。18週から22週にかけての岩手県における眼科以外の小児科・内科定点におけるPCFの発生報告はほとんどなく,PCFがこの期間にこの地方に多発したとは考えられない。一方,このPCFの発生に一致してEKCも同地区で多発しており,EKCの非定型をPCFと診断している可能性が強い。すなわち,これらの鑑別には臨床診断のみならず,病因診断が必要となる。さらに眼科定点と併存する形での小児科・内科定点におけるPCFの発生観察が必要であろう。

 (2) 流行性角結膜炎(EKC):岩手県において16週から26週にかけて継続的発生が見られた。しかし,このEKCの発生が院内感染か地域内の小流行かは現在の定点数では確認できない。さらに病因検索が行われていないので,今後この方面のサーベイランス情報の収集についての改善が緊急に必要と思われる。第2四半期では岐阜県,高知県と佐賀県の地域における報告も一定点当たり1週間に5例以上の発生をみており,今年の夏の発生がさらに増加することが予測された。

 (3) 急性出血性結膜炎(AHC):第2四半期においてPCFのスクリーニングと同じ基準でみると,千葉県と宮城県において発生がみられた。病因情報によると千葉県におけるAHCはCA24のVariantによることが確認されており,成田地方に通学している高校生を通して発生が拡大したという定点からの報告がみられる。今後我が国のみならず,近隣諸国におけるAHCの流行についての情報還元が必要と思われる。

 3.ウイルス性肝炎

 (1) A型肝炎:1987年,88年および89年の月別発生数を図1に示した。昨年,一昨年と同様に3〜4月に発生のピークがみられ,6月には明らかな発生数の減少がみられた。1〜6月までの発生数は933人で88年同期間の1.2倍,87年同期間の2.2倍であり,年々発生数が増加している点が注目される。男女比は0.97で昨年と同様女性に多い。年齢分布を図2に示した。5〜14歳と30〜44歳に2峰性のピークがみられるが,昨年は30〜44歳の方に発生数が多かったが,本年は5〜14歳に発生数が多く,若年者にA型肝炎感染例が増加した点は今後の発生を予測する上で重要な所見と考えられる。地域別では第1四半期と同様,関東甲信越,東海北陸で発生の増加がみられたが,特に群馬,石川,福井,岐阜,愛知,三重で第2四半期の方が発生数の多かった点が注目される。

 (2) B型肝炎:発生数は昨年同期の92%と減少の傾向がみられた。男女比は昨年同期1.65に比べ1.89と男性が多かった。年齢別分布は昨年と大差がなく,30代および40代に多い。

(3) その他の肝炎:発生数は昨年同期の約85.3%と明らかな減少がみられた。男女比は昨年同期(1.26)とほぼ同様(1.19)であった。年齢別分布も昨年と大差なく4歳以下および20代後半から50代までほぼ同数の発生数であった。

 4.性感染症

 第2四半期の定点当たり件数の概況を前年同期と比較して要点を述べる。

 (1) 淋病様疾患(淋菌感染症):淋病様疾患は今年の1月から4月までは,3月のわずかな減を別にするとおよそ10%の減少を示していたが,5月,6月と前年同期に近接してきている。8月の予想ピークが前年の定点当たり2.14を超えるかどうかが注目される。

(2) 陰部クラミジア感染症:陰部クラミジアは2月から漸増し,前年同期との差をひろげ,5月には前年比14%増(定点当たり1.89)となったが,6月はわずかに前年を下回った。対淋病様疾患件数比は第1,第2四半期通算0.97とほとんど淋病様疾患と差はない(ちなみに前年1か年の件数比は0.89)。診断キットが普及すればさらに増加が予想されよう。安定した値が得られるのも遠くないと思われるが,その保証となり得る指標は何なのか検討を始める時期に来ていると考えられる。本症も夏にピークがあるので次四半期の動きに着目したい。

(3) 尖圭コンジローム:前年比およそ1割の微減であり,月別に目立った起伏はみられない。

 (4) 陰部ヘルペス:前年比およそ1割の微増であり,月別に目立った起伏はみられない。

 (5) トリコモナス症:トリコモナス症も前年とほぼ等しい水準で推移したが,6月に至り前年とは逆にやや下降(12%減)をみている。

大都市圏の性感染症の概況について,東京都および10指定都市の計126定点の淋病様疾患報告を例にとってみた。全国一定点当たり件数に比し,今年の1月から3月までで1.6〜1.7倍,今四半期の4〜6月では1.7〜1.8倍の高水準にあり,性感染症が大都市圏を温床として蔓延する度合いが推察された。ただし,指定都市間の定点の整合性には問題があることがいくつか示唆され,たとえば淋病様疾患,または陰部クラミジア感染症が月定点当たり0か1という指定都市がみられる等,サーベイランスシステムの見直しに際してはまず,流行を鋭敏に反映する指定都市定点から点検整備がなされるべきであろう。



結核・感染症サーベイランス情報解析小委員会


図1.全国一定点医療機関当たり患者発生数の推移
図2.年齢分布





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