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Vol.10 (1989/12[118])

<国内情報>
感染症サーベイランス解析評価について(平成元年第3四半期)


平成元年11月7日



 1.小児科内科定点,病院定点の感染症

 概況:本年第3四半期の特徴は,流行性耳下腺炎の4年ぶりの流行がピークを迎えたことである。流行は第28週に定点当たり2.91人を示した後,急速に治まっていった。夏期の感染症として,ヘルパンギーナは例年なみの発生であったが,手足口病の発生は少なかった。無菌性髄膜炎は,一昨年,昨年と少ない年が続いていたが,今シーズンは2,3の県で流行があり,全国平均も例年に近い発生カーブを示した。咽頭結膜熱の小児科内科定点からの報告は,第28週から昨年を上回る勢いで急増したが,第31週で頭打ちとなった。百日せき様疾患の発生は,夏期から9月にやや増加する傾向があるが,本年はそのような傾向も見られず,これまでの最低の発生が続いている。第3四半期は春の感染症が下降する時期であり,麻しん様疾患,風しん,水痘,溶連菌感染症は治まっていった。その他は大きな変化はない。

 (1) 麻しん様疾患:本年の発生は少ない。第39週までの累積報告数は,1987年20.35人であったが,1988年は14.51人と低下した。本年はさらに低下して9.88人となっている。ピーク時の定点当たり報告数を見ても,1987年は第12週0.89人であったのに対して,1988年は第19週0.66人,本年は第19週0.44人である。

ブロック別に見ると,本年累積報告数は,東海北陸17.76人,北海道17.11人,中国四国15.07人で,その他のブロックは九州沖縄7.92人,東北6.65人,関東甲信越3.56人と10人以下である。ブロック別の流行状況は1987年は,北海道と近畿,中国四国,九州沖縄の発生が多く,1988年は東北,関東甲信越,東海北陸で,本年は北海道,東海北陸,近畿,中国四国が多くなっており,本州では1年おきの増減の傾向も見られる。

 本年度の県別累積報告数について,定点当たり20人以上と発生の多い県は,岐阜24.61人,静岡29.89人,愛知22.67人,滋賀26.41人,大阪20.64人,大阪市20.00人,香川54.48人,佐賀28.72人である。

(2) 風しん:1987年に全国的な流行があり,第22週に定点当たり10.71人のピークを作り,第3四半期までの累計169.96人を示した。1988年は第22週のピークは3.78人で,同期の累計は64.80人であった。本年はさらに低下し,ピークは同じく第22週であったが1.71人,第3四半期までの累計31.91人と昨年の2分の1以下となった。第39週は定点当たり0.04人と落ち着いている。

ブロック別累積報告数は北海道が138.30人と多く,次いで九州沖縄56.59人,中国四国48.23人,東海北陸34.75人で,その他は東北27.83人,近畿18.93人,関東甲信越8.68人と少なかった。

県別の累積報告数を見ると,100人以上の県は北海道138.30人,札幌市151.26人,岩手101.68人,高知260.52人,沖縄199.92人と,流行は少数県のみに認められた。また,定点当たり10人以下とほとんど流行のない県は15県に達した。

(3) 流行性耳下腺炎:前回の1985年の流行から4年目の流行の山を認めた。本年の初めは定点当たり1.5人程度で,第9週から2.0人を超え,春の連休前後にわずかの中だるみがあったが,第22週以後は2.5人以上となり,第28週に2.91人のピークに達した。その後は急速に低下し,第33週には2.0人以下となり,第38週には1.04人まで下がった。前回の流行は第29週に定点当たり3.30人のピークであった。今回の流行も同様に7月のピークで,前回よりは幾分低いが,ほぼ匹敵する規模であった。ピーク後の下降も前回と同様である。前回は第38週に1.40人まで下がった後再増加し,年末には2.5人前後までぶり返している。これは,東日本では一般に秋になってからの発生は少なかったが,西日本で再増加したところが多かったことによるものであった。本年も地域によっては再増加が明らかなところもあると考えられるので,警戒する必要がある。

本年第3四半期(第39週)までの累積報告数は定点当たり79.04人で,1985年同期の71.06人に比べると幾分多い。これは,本年の春の発生が1985年の春よりも多かったことによる。

本年のこれまでのブロック別累積報告数は,東北が116.88人,次いで九州沖縄110.78人,以下,東海北陸92.65人,中国四国91.77人の順で,関東甲信越72.47人北海道49.82人,近畿45.04人は全国平均以下であった。

県別で定点当たり累積報告数が150人以上と発生の多かったところは,山形224.56人,富山172.81人,福井157.16人,長野151.46人,愛媛179.93人,福岡177.22人であり,指定都市も北九州市の146.90人と,福岡市166.0人が多かった。

罹患年齢分布は流行時においても,どの年齢群も同様に増加する傾向である。

(4) 百日せき様疾患:本年の発生状況は,週当たり定点当たり0.02人ないし0.05人が続き,これまでの最低レベルの発生カーブになっている。第39週までの累積報告数は1.55人で,昨年同期の2.31人の約3分の2の発生である。

 ブロック別の累積報告数は九州沖縄が3.30人と全国平均の2倍以上で,その他は東海北陸1.68人,東北1.65人,北海道1.64人で,中国四国1.43人,近畿1.30人,関東甲信越1.01人は平均以下である。

県別累積報告数が3.0人以上は岡山3.14人,福岡8.10人,北九州市15.20人,福岡市11.08人,大分4.59人,鹿児島5.28人と九州に集中している。罹患年齢は2歳以下の減少が目立っている。

 (5) 感染性胃腸炎:今期,感染性胃腸炎の病因細菌の中でサルモネラO9群の報告が急増し,特に,S.enteritidisによる集発事例が異常に増加した。

 また,本年のコレラ発生は10月20日現在患者総数92名,海外渡航歴のない国内発生患者が63名である。9月中に15件66名が発生し,大部分は名古屋市(44名)と滋賀県(8名)において発生した2件の集団発生によるものである。

 (6) 手足口病:本年の発生は少なく,数県で軽度の増加を見たのみであった。昨年は流行の程度が大きく,第27週のピークは定点当たり4.55人となったが,本年は第29週のピークに定点当たり0.36人に達したにすぎなかった。第3四半期末までの累積報告数も定点当たり5.0人と著しく少ない。定点当たり10人を超えた県は茨城11.45人,群馬15.59人,富山10.14人,山梨29.87人,長野11.74人,静岡32.26人,沖縄16.69人の7県のみで,5.0人以下の県は30県に達した。

ブロック別累積報告数は関東甲信越8.30人,東海北陸7.62人,東北3.84人,九州沖縄3.69人と,関東周辺と沖縄で軽度の増加があったことを示している。その他は,北海道1.01人,近畿1.94人,中国四国2.23人と少なかった。

少ない患者発生と平行して,手足口病の病因である2つのエンテロウイルス,コクサッキーA16型(CA16)とエンテロウイルス71型(EV71)の分離報告も低調である。本年10月末までに病原微生物検出情報に報告された4月以降の検出数はCA16が23株,このうち期間を通して分離されたのが長野(10株)と鳥取(10株)で,その他に島根と福島から分離が報告された。また,EV71は合計6株で,7,8月に長野で5株,9月に京都市で1株の分離が報告された。両ウイルスともほとんどすべて手足口病患者からの分離である。

 (7) ヘルパンギーナ:本年も,第15週頃から増加のきざしが見え,第24週から定点当たり1.0人を超え,第29週に3.68人のピークを作った後,順調に低下していった。この規模は例年なみといえよう。第3四半期末までの累積報告数は定点当たり31.83人で,ブロック別には,東海北陸41.95人,東北40.40人,近畿33.20人,九州沖縄31.16人,中国四国31.13人,北海道27.61人,関東甲信越25.33人で,それほどの違いはない。

県別累積報告数では定点当たり50人以上は,宮城75.0人,三重59.32人,鳥取54.86人,大分59.78人で,10人以下は,山梨6.39人,沖縄3.81人であった。

ヘルパンギーナと関連の高いコクサッキーA(CA)群ウイルスの4月以降の分離数を見ると,10月末までの報告ではCA4型がめだって多く(204株),ついでCA8型(38株) ,CA6型(34株),CA10型(23株)などである。

(8) その他:昨年流行した異型肺炎は,第45週に定点当たり0.86人のピークに達した後低下し,本年は0.3人前後のレベルの発生が続いている。非流行期は0.1人台となるので,それよりは幾分多い状態である。

水痘,溶連菌感染症は,ほぼ一定のパターンで,水痘は第30週から低下し始め,第39週には定点当たり0.41人となった。溶連菌感染症は第25週の0.65人から,第33週には0.17人となった。その後は0.2人台が続いていたが,第39週には0.32人と増加し始める様子を見せている。秋から冬にかけての増加が一番早く認められるのは溶連菌感染症である。第40週から翌年の第39週までのシーズンの発生状況を見ると,水痘は1986〜87年シーズンは定点当たり118.50人,1987〜88年は94.33人で,1988〜89年は98.97人と,隔年毎の増減を示している。溶連菌感染症は1986〜87年20.11人,1987〜88年22.97人,1988〜89年24.23人と幾分増加した。

(9) 無菌性髄膜炎:一昨年,昨年は少ない年で,一昨年は8月のピークが病院定点当たり0.71人,9月までの累計3.21人,昨年は7月がピークで,0.93人,累計3.62人にすぎなかった。本年は7月がピークで病院定点当たり2.04人,9月までの累計も7.61人と,例年なみの低いほうのレベルになった。発生状況は県によってかなりの違いがあり,一部の県でかなり強い流行があったのに対して,ほとんど流行のなかった県も多数にのぼった。

県別の9月までの病院定点当たり累積報告数は,沖縄196.00人,鳥取95.70人が特に多く,香川も32.17人を示している。その他10人台の県は,神奈川10.94人,新潟17.50人,富山15.40人,兵庫11.90人,奈良17.00人,山口12.67人,宮崎13.50人で,5人以下は23県であった。これを反映してブロック別累積報告数せも中国四国17.06人,九州沖縄7.79人が平均以上で,その他は東海北陸6.46人,近畿5.43人,関東甲信越5.35人で,北日本は北海道1.87人,東北1.48人と,ほとんど流行を見なかった。

病原体情報からみて,本年の無菌性髄膜炎の特徴は地域的にかたよって種類の異なるエンテロウイルスの流行が報告されていることである。第3四半期に,髄膜炎症例から分離が報告されている主なウイルスはコクサッキー(C)A9,CB2,CB4,CB5,エコー(E)4,E11,E30などである。このうちCA9は,10月末までに報告された34例中31例が愛知から,E4は22例すべてが鳥取,E30は144例中116例が鳥取,22が徳島,その他は広島と岡山からの報告である。また,福岡県でE11の流行が報じられている。

 2.眼感染症

 (1) 咽頭結膜熱(PCF):眼科定点において,この第3四半期に咽頭結膜熱の患者を一定点週平均1人以上,4週間以上報告した県は,岩手,秋田,高知の3県であり,最高は高知県の一定点週3.67人であった。高知県の小児科・内科定点においても,咽頭結膜熱の患者を一定点週平均5人以上示す週が8週間連続して認められ,眼科定点と小児科・内科定点における咽頭結膜熱の患者数の増加を報告しており注目された。これと同じ傾向は患者の絶対数は少ないが,静岡県においても見られた。

 (2) 流行性角結膜炎(EKC):一定点の週平均5人以上の報告が4週以上あった県は,岩手県,福島県,新潟県,岐阜県,和歌山県,山口県,福岡県,佐賀県,長崎県,沖縄県,福岡市,青森県であった。このうち週10人以上の報告があった県は岩手県,佐賀県,福岡県,沖縄県であり,これら報告数が多かった場合,その流行の範囲は2県にまたがる形の範囲で,岩手と青森,山口と佐賀,福岡と長崎の両県などに認められた。流行性角結膜炎は,全国平均では例年34週前後に患者が多く報告されており,サーベイランスが始められてからこの傾向が漸次少なくなってきていたが,本年は若干上昇の傾向が見られ,アデノウイルスの周期的流行が来年度に来る可能性が考えられる。

 (3) 急性出血性結膜炎(AHC):週2.0人以上の報告はなく,流行は認められなかった。

3.ウイルス肝炎

 (1) A型肝炎:定点あたりの発生数は7月0.08,8月0.04,9月0.03と,例年と同様に減少し,A型肝炎の季節発生は終息したと考えられる。

 (2) B型肝炎:第3四半期の発生数は昨年とほぼ同様で定点当たり0.28(昨年0.29)であり,男女比も1.58(昨年1.71)と男性が多かった。

 (3) その他の肝炎:第3四半期の発生数は0.23で昨年の0.28に比べ約18%少なかった。男女比は1.02で性差は見られなかった(昨年は0.97)。

4.性感染症

 第3四半期は例年淋病様疾患,陰部クラミジア感染症がピークとなる時期で,本年もその傾向がみられたが,他の陰部ヘルペス,尖圭コンジローム,トリコモナス症は季節変動はみられなかった。

 (1) 淋病様疾患(淋病感染症):淋病様疾患は例年通り春から増加に向かい,8月にピークに達したが,定点当たり1.99に止まり,前年8月の2.14には及ばなかった。1月から9月までの報告数は9,672で,1988年10,192,1987年10,798からみると年々約5%の減少が続いている。

 (2) 陰部クラミジア感染症:陰部クラミジア感染症は2月から増加傾向となり,第2四半期に続いて9月まで増加を続け,昨年は8月がピークであったが,本年は今のところ9月が最高となっている。1月から9月までの報告数は9,483で,1988年8,816,1987年8,425と年々5〜7%の増加が続いており,淋病様疾患と近く逆転する可能性が予想される。

 (3) 陰部ヘルペス:陰部ヘルペスは5月以外は各月とも微増を続け,特に6〜8月は過去2年間より上回っていた。月別の目立った起伏はみられなかった。

 (4) 尖圭コンジローム:9月にわずか前年より増加した以外は微減が続いている。月別の目立った起伏はみられなかった。

 (5) トリコモナス症:7月までは微減で推移したが,8月,9月は約20%減少した。過去3年間減少傾向が続いている。



結核・感染症サーベイランス情報解析小委員会





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