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Vol.11 (1990/1[119])

<国内情報>
コレラの集団発生事件について−名古屋市


 平成元年9月3日,名古屋市中区にあるNTT名古屋会館で昼,夕食をとった食事客から,4日食中毒患者が発生した旨保健所に届出があった。

 その後,9月7日になって,上記食事客の中で入院している市内の病院を通じて保健所にコレラ要観察者の届出(9月8日に真性コレラ患者と決定)があったのを始めとして,NTT名古屋会館関係として,全国でコレラ患者43名(名古屋市分9名),保菌者1名が発生する集団コレラ事件に発展した。

 患者の都道府県別発生状況を表1に示す。

 今回のコレラ事件の特徴は,食中毒原因菌(腸炎ビブリオ)との混合感染である。グループ別コレラ患者・食中毒患者発生状況を表2に示した。Aグループ,Bグループでのコレラ患者,食中毒患者の発生率が高く,Aグループでコレラ患者発生率49%,食中毒患者発生率62%で,Bグループはコレラ48%,食中毒87%であった。Cグループは食中毒患者の発生率のみが高かった。Dグループはコレラ患者のみが発生した。

 コレラ患者の潜伏期は喫食した当日(9月3日)から9月7日までで,9月4日の発病がもっとも多く,29名であった。コレラの潜伏期は通常1〜3日と言われている。

 症状については,水様下痢を呈したものが多くみられたが,典型的コレラ症状の米のとぎ汁様の下利便を排出した者もみられた。また,血圧低下,脱水によるショック状態,意識低下等の症状を示す重症例もあった。しかし,死亡例は1例もなく全員が治癒した。

 また,同会館関係者以外に,時期を同じくして市内で2名のコレラ患者と1名のコレラ保菌者の発生があった。

 今回のコレラ集団発生は,幸いにも二次感染の発生をみることなく,9月28日をもって終息した。発生原因については,食品を介しての感染がもっとも疑わしいと考えられるが,現在,名古屋市コレラ疫学調査委員会を設置して検討を行なっている。

 コレラ菌検索にはTCBS培地とPMT培地を併用して行なった。PMT培地は選択力はやや弱いものの,コレラ菌のコロニーに特徴があり,保菌者など排菌量の少ない患者からのコレラ菌の分離が容易であり,また,Non-01コレラ菌との鑑別も容易であった。特に,PMT培地のコレラ菌は,血清凝集性が良く,迅速な検査に有効だった。

 今回,分離されたコレラ菌は,集団発生事例43株,散発発生事例3株ともエルトール稲葉型であった。また,カッパ型ファージ非産生で,ファージ感受性株で,田ured狽ナあった。薬剤感受性は,クロラムフェニコール,カナマイシン,テトラサイクリン等に感受性であった。分離したコレラ菌から,アルカリSDS法でプラスミドの検出を行なったが検出できなかった。

 現在,集団発生事例と散発発生事例の関係を染色体DNAの制限酵素分解パターン,CT gene(コレラ毒素遺伝子)を含むDNA断片の大きさの比較により検討中である。



名古屋市衛生研究所 森 正司,安形 則雄,野村 寛,中園 加奈,本多 忠善,今井 昌雄,村瀬 嘉孝
名古屋市衛生局保健予防課 金田 誠一


表1.都道府県別コレラ患者発生状況
表2.グループ別コレラ患者,食中毒患者発生状況





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