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今冬のインフルエンザを定点観測の成績からみると,1989年の12月10日前後にまず,A(H3N2)型ウイルスが検出され,本年の1月にB型ウイルスが出現し,その後1ヵ月間はA,B両型の混合流行,2月にはB型が主流となり,その後3月13日現在でもB型ウイルスの分離が続いている。
この間における学童の集団発生(学級閉鎖)は,定点観測でウイルスが初めて検出された12月10日から始まったが,年内は大規模な発生に至らなかった。しかし,年が明けた1月上旬から本格的な流行が始まり,集団発生は2月11日の週をピーク(患者数4,000名)として3月4日の週でほぼ終息した。この集団発生のウイルス学的な調査成績は表1に示した通りである。
今シーズンの学童におけるインフルエンザは,過去の流行ではみられなかった現象が観察された。それは1月中に発生した16の学級閉鎖集団のうち,1集団3〜6名の調査範囲で,6集団からA(H3N2)型とB型の2種類のウイルスを分離した。このことは,それらの学校(地域)において2種類のウイルスが同時期に,しかも同じ規模で,混合して流行していたことを物語っている。従来のインフルエンザ流行でも,ごく限られた地域での混合流行のケースは観察されたが,今冬のような約1ヵ月間という長期間にわたって,ほぼ県内の8割程度と思われる広い地域での流行は初めてのケースである。
われわれはこの混合流行において,一人の学童の咽頭スワブからA(H3N2)型とB型ウイルスを同時に検出した。1月27日に発病した表中のNo.15の集団発生のケースで,3名について調査したところ,2名からウイルスを分離し,1株がB型で,他の1株はA,B両型ウイルスの混在であった。残りの1名はウイルスの検出はできなかったが,ペア血清検査からA香港型の感染であることが分かった。この両型混在の分離株はHI試験による同定試験で,抗A/北海道/20/89血清および,抗B/山形/16/88血清の各単独では1:16で抑制されないが,両抗血清を等量に混合した血清では1:256まで抑制された。この学童のペア血清(発病後1日,17日)はA/四川/2/89株に<1:16,1:32,また,B/山形/16/88株には<1:16,1:64のHI価を示し,2種類のウイルス感染が実証された。
また,この他にウイルス分離では単一型のみであったが,ペア血清(2〜3週間隔で採血)による成績から,2種類のウイルス感染が認められた学童を3名観察した。
以上のごとく,群馬県における今冬のインフルエンザは長期間にわたりA,B型の混合流行が続き,過去には見られなかった流行パターンが認められた。
なお,1989年7月に年齢別に採血した約1,200名の,今冬流行株に対するHI抗体の保有は,両型とも各年齢層で極めて低率であった。
群馬県衛生公害研究所 中村 忠義,重原 進
表1.1989〜90年インフルエンザ検査情報(集団発生)
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