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1989年夏の手足口病の患者発生はサーベイランス開始以来最低で,冬季流行もなくそのまま1990年4月までは低調であった。しかし,夏季に入って17週以降九州で流行が始まり,その後全国的に拡大し,第27週の一定点当たり報告数はサーベイランス開始以後の最高値となった(図1)。
1989年は年間患者報告数が8.8と少なかった(表1)が,患者の年齢分布は流行年とほとんど変わりなく,1歳,2歳,3歳,4歳の順に多く,4歳以下が81%であった(表2)。
1989年に手足口病が報告された例から検出されたウイルスとして1990年7月までに報告されたのは110で,内訳はCA16が48,EV71が41,その他のエンテロ12,その他のウイルスが9であった。1989年中にCA10検出例は34例あったが,手足口病からの報告はなかった。
1989年にCA16は合計57例検出され,このうち手足口病が報告されたのは0〜6歳46例,9歳と17歳各1例であった。EV71は60例中0〜6歳39例,7歳と10歳各1例に手足口病が報告された。
1989年に手足口病から検出されたCA16は鼻咽喉から44,皮膚病巣から3,便から1が分離された。EV71は鼻咽喉から37,皮膚病巣から6,便から9が分離された。CA16は細胞で47,哺乳マウスで1,EV71は細胞で39,哺乳マウスで2が分離された。
手足口病の主な病因となる3種のエンテロウイルスについてみると,CA16は1982年,1985年,1988年の手足口病流行の際,それぞれ491,475,452が手足口病から分離され,1987年の冬季流行の際には215が分離された(表3)。EV71の分離報告は1983年が最高で,286が手足口病から分離された。1982年冬季流行から100が分離されたほかは,1984年以降年間検出数は14〜82にとどまっている。CA10は1984年に大流行し,総検出数600が主にヘルパンギーナから検出されたが,68例に手足口病が報告された。その後1988年に小流行し,29に手足口病が報告された。
CA16とEV71の同時期の流行は1985年にみられたが,その他の年では時期をずらして流行している(図1)。表4にCA16,表5にEV71の1989年1月〜1990年6月までの手足口病からの検出数を,月別・住所地別にあげた。さらにこの後の追加報告については
本月報2〜18ページを参照
されたい。今シーズンのウイルス分離報告はまだ速報の段階であるが,例年になくEV71の動きが目立つものの,地域によっては同時にCA16あるいはCA10の検出が報告され(福島,福岡,大分),また,CA16単独の報告(神奈川,香川)もある。今のところ秋田,長野,島根,長崎の各県と北九州市はEV71のみが報告されている。手足口病と髄膜炎が報告された例は1989年はEV71が1例(12月),アデノ2が1例(11月),1990年は今までにEV71が4例(3月1,3月3)報告され,さらに追加報告でも髄膜炎例がみられている。
図1.手足口病患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
表1.年別手足口病患者発生状況(1989年)(感染症サーベイランス情報)
表2.年齢別手足口病患者発生状況(1989年)(感染症サーベイランス情報)
表3.手足口病報告例からの年別ウイルス検出状況(1982年〜1990年)
表4.手足口病報告例からの月別・住所地別CA16ウイルス検出状況(1989年1月〜1990年6月)
表5.手足口病報告例からの月別・住所地別EV71ウイルス検出状況(1989年1月〜1990年6月)
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