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Vol.11 (1990/9[127])

<国内情報>
結膜炎患者からのアデノウイルス22/H10,19,37型の分離−広島市


 我々は1983年以来結膜炎患者からのウイルス分離をおこなっている。その病因検索の過程で既知の結膜炎起因アデノウイルスとは異なるウイルスを分離し,交差中和およびHI試験の結果,中和試験でAdeno(Ad)22と同定され,HI試験でAd10,Ad19,Ad37に反応するウイルス(Ad22/H10,19,37:仮称)であることを明らかにしたので,その概要を報告する。

 Ad22/H10,19,37は1986年7月25日に流行性角結膜炎(EKC)患者から採取された結膜ぬぐい液から初めて分離され,その後1988年まで計8株が分離された(表1)。患者は8名中6名がEKC,他が急性出血性結膜炎,急性結膜炎と臨床診断され,年齢は20歳から47歳であった。ウイルスの分離は容易であり,HEp2細胞,ヒト胎児線維芽細胞の両細胞で8株全てが,RD−18S細胞で半数が分離された。HEp2細胞においてAd19,Ad37と同じ典型的な円形化のCPEを示した。また,ラット,ヒトO型,マウス,モルモットの各赤血球を良く凝集した。

 交差中和および交差HI試験による同定結果をそれぞれ表2,3に示した。抗血清は自家製の家兎免疫血清を用いた。中和試験において,分離株は抗Ad22プロトタイプ血清で中和され,また,分離株に対する抗血清はAd22プロトタイプを中和したことから,Ad22と同定された。また,抗Ad10,Ad19,Ad37の各抗血清で有意にCPEが遅れ,それらのウイルスと部分的交差が認められた。一方,HI試験では,抗Ad22プロトタイプ血清には反応せず,抗Ad10,Ad19,Ad37の各抗血清にそれぞれホモと同程度に反応した。以上の結果から,これらの分離株は中和試験ではAd22と同定されるが,HI試験ではAd10,Ad19,Ad37に反応するintermediateなウイルスであることが判明した。

 Ad22/H10,19,37はすべてEKCを主とする結膜炎患者の結膜ぬぐい液から分離されており,本ウイルスは結膜炎,特にEKCの新しい病因ウイルスであると考えられる。中和試験とHI試験とで異なる血清型に反応するウイルスはD群アデノウイルスでこれまでいくつか報告がある1)が,このウイルスと同じ反応を示す分離株の報告は見られない。また,Ad22の分離報告は世界的に見ても極めて少ない。このウイルスがどのような理由により突如として結膜炎の病因として分離され始めたのか,また,どのようにして創られたのか,興味が持たれるところである。

 なお,このウイルスは中和試験で抗Ad19および抗Ad37の両抗血清で有意にCPEが遅れるため,それらのウイルスと同定される危険性があるので注意が必要である。

 文献

1)Wigand R. and Adrian T., Med Microbiol Immunol, 178, 37-44,(1989)



広島市衛生研究所 野田 衛,宮基 良子,瀬尾 芳子,池田 義文,松石 武昭,荻野 武雄


表1.アデノウイルス22/H10,19,37型の由来
表2.交差中和試験によるアデノウイルス22/H10,19,37型の同定
表3.交差HI試験によるアデノウイルス22/H10,19,37型の同定





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