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リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(Lymphocytic choriomeningitis virus,LCMV)はアレナウイルス科のウイルスに属し,その自然宿主はハツカネズミ(Mus musculus)である。このウイルスはヒトに感染性を有し,脈絡性髄膜炎を起こす人獣共通伝染病として知られている。また,実験用マウスコロニーに侵入し,垂直伝播によりコロニーを汚染することが知られている。
わが国におけるこのウイルスの存在は昭和12年,笠原四郎らにより日本脳炎ウイルスの分離研究中に分離された。このウイルスは実験に使用したマウス,モルモットに由来するものと報告されている(Trans. Soc. Path. Jap., 27, 581-585, 1937)。その後このウイルスの疫学的な研究はなされていなかったが,1986年 佐藤 浩らは実験用動物の血清疫学的調査を行い,主としてマウスに抗体を保有するもののあることを報告した(Exp. Anim., 35, 189-192, 1986)。しかし,ウイルス分離には成功しなかった(私信)。
一方,野生ハツカネズミについての調査は全く行われていなかったが,予研獣疫部と横浜検疫所は1985〜1986年に他の目的で採取された横浜港のハツカネズミについて調査し,陽性例のあることを認めた。しかし,1988〜1989年に採取された血清には陽性例は見出されなかった(投稿中)。
1990年,我々は大阪港湾地区の3つの埠頭の倉庫において捕獲したハツカネズミ26例について検査を行い,このうち7例(25.9%)が陽性(IFA,16倍以上)であることを見出した。しかもこの陽性は2つの埠頭に限られ,これら埠頭では6例中2例(33.3%),11例中5例(45.4%)と高い陽性率を示すことが明らかとなった。そこでこれらの埠頭において再度ハツカネズミの捕獲を行い35例(陽性18例,51.4%)の材料を得た。これら材料中22例についてマウス脳内接種およびVero−E6細胞を用いてウイルスの分離を行ったところ,抗体陽性例12例から2株,抗体陰性例10例から6株のLCMVを分離した。
わが国では未だヒトのLCMVの感染例は報告されていないが,都市化にともない住家性ネズミの主体はドブネズミからクマネズミ,ハツカネズミへと移行している。都市ビル,人家のハツカネズミでの本ウイルス侵淫は明らかではないが,ヒトの髄膜炎の検査に当たっては本ウイルスの存在にも留意する必要があろう。
(LCMVの取扱いにはP−3施設が必要である。予研獣疫部で診断可能である)。
国立予防衛生研究所 森田 千春
大阪検疫所 城 敬一郎,馬場 一廣,加藤 正義
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