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神奈川県では1983年秋季に2名の患者が報告され,これは近年の全国的なつつが虫病流行から3,4年遅れての発生であった。患者発生を年次別にみると,1983年2名が届出されて以来,翌年の1984年には17名(血清学的確認患者:以下確定と略,14名)と急激な増加が認められたが,その後1985年の14名(確定10),1986年17名(同15),1987年33名(同19),1988年24名(同19)とほぼ横ばいの状況が続いた。しかし,1989年には107名(同78)と約4倍の患者発生となった(表1)。本県の季節的な特徴をみると,表2に示すように1986年春季に4名の確定患者が認められたものの,過去7年間でほとんどの患者は秋季から冬季にかけて発生していることが分かった。
患者の発生を感染場所が特定できたものに限ってみると,1984〜1987年までは山北町を中心に,ほぼ東または南東地区に広がりを見せていた。しかし,1988年は山北町から北部へ発生地区が拡大し,患者が多発した1989年には1988年に発生した地区の周辺へと広がりつつ,さらに周辺の空白地区を埋めるように発生した。
さらに詳しく行った聞き取り調査から感染推定地区と患者数をまとめてみると,他都県で感染し,本県で届出されたと思われるものを除いて1985年までは,患者は足柄上地区に限定していた。1986年から少数ではあるが,南足柄・厚木地区に発生が広がり,その後1988年には津久井地区にまで拡大した。しかし,その間にも足柄上地区,特に山北町の発生は続いている。山北町で患者が発生した1984年から,県内患者総数に占める山北町患者の割合をみると1984年が80%,1985年55%,1986年63%,1987年82%,1988年76%であり,1985年を除いて山北町が高い比率を示した(表1)。一方,1989年は山北町で53名(確定38名)患者の発生がみられたが,同時にこの年は,南足柄市など前年発生している地区だけではなく,これまでに発生したことがない秦野市に7名(同7名),そのほか城山,相模湖両町にもそれぞれ1名ずつ新たな患者発生の報告があった(表1)。この年の患者全発生数にしめる山北町の割合は62%で,前年までに比べ低い傾向にあった。
聞き取り調査から回答の得られた1988年の17例,1989年の62例についてつつが虫病罹患患者の感染時の状況を両年について比較したものが表3である。1988年の患者感染時の状況は山仕事が35%,キノコ取り24%などで,山地での感染が全体の65%を占め,平地での感染は12%であった。これに比べ,1989年では山地で感染したと思われる症例は34%であるのに対し,平地での感染が47%と高く,全体の症例の半数近くあることが注目された。
1989年の本県のつつが虫病の流行は,平地での感染が目だったことから,今後の動向を注意深く見守る必要がある。
神奈川県衛生研究所 吉田 芳哉,古屋 由美子,原 みゆき,小田 和正
神奈川県足柄上保健所 松岡 道子,河西 悦子,小沢 克明,林 茂利
表1.推定感染場所別恙虫病患者発生状況
表2.神奈川県における季節別恙虫病患者発生状況
表3.1988年と1989年の患者の感染時行動別比較表
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