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わが国のA型肝炎ウイルス(HAV)抗体の50%保有年齢は45歳前後(1988年)と推定され,30代以下ではほとんどがHAV抗体を保有していない状況である(愛知県では20代1.7%,30代10.8%がHAV抗体保有)。一方,感染症サーベイランス事業にウイルス性肝炎定点が加えられて以来,愛知県のA型肝炎患者数は年々増加している(昭和62年35名,63年88名,平成元年113名,2年6月までで259名)。また,3月,4月をピークとする季節変動があり,その原因に興味がもたれるが,わが国の生活様式における2次感染の程度についても究明が必要である。そこで,A型肝炎患者の周囲の人々のHAV感染の有無を知るために,県内の病院・保健所の協力を得て関係者の糞便を採取し,ELISAによるHAV抗原の検出を試みた。
検体として愛知県で1990年1月から3月にA型肝炎と診断された患者のうち21家族74名(内患者14名)の糞便130例(内患者15例)と,A型肝炎患者が発生したI保育園の職員と園児の糞便156例を用いた。HAV抗原の検出は国立予防衛生研究所・森次らの方法によるサンドイッチELISA法を用いた。また,これと同様の反応系を用い抗原検出も可能とされるA型肝炎抗体測定用キット(HAT−EIA,デンカ生研)も併用した。
患者とその家族からのHAV抗原検出結果を表1に示した。患者の糞便の多くは発症後1週間以上経過して採取されたためかいずれもHAV抗原陰性であった。その家族60名から集められた115例の糞便のうち,患者発生後3〜4週後に採取された3例からHAV抗原が検出された。この3名は,年齢が10歳,31歳と32歳で,いずれもその後3〜7日で発症した。保育園の職員と園児からのHAV抗原検出結果を表2に示した。患者が発生して3週後に採取された糞便のうち1例からHAV抗原が検出された。この園児の年齢は5歳で発症はしなかった。HAT−ELAキットを抗原検出用に用いたところ予研法と同様な結果が得られた。
HAVの排泄は発症の2週間前から始まるとされているので,それを検出し感染を知ることは,治療の上で有効であり,二次感染の予防にも役立つものと思われる。また,HAT−EIAキットを応用することで誰でも手軽に抗原検出が可能であろう。今回調べた21家族のうち家族内感染が確認されたのは2家族のみで,保育園における二次感染も1名のみと少数であった。今後,さらに例数を増やし,血清診断に抗原検出を併用し,わが国のA型肝炎の流行における二次感染の程度について検討していきたい。
愛知県衛生研究所 山下 照夫,栄 賢司,石原祐弌,磯村 思无
国立予防衛生研究所 森次 保雄,戸塚 敦子
表1.A型肝炎患者発生後の患者とその家族のHAV抗原の検出時期
表2.A型肝炎患者発生後の保育園における職員と園児のHAV抗原検出
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