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図1に感染症サーベイランス情報における一定点当たり週当たりの麻しん様疾患患者報告数の推移を示した。日本では1978年10月から麻しん予防接種が定期接種となり,麻しんの流行の規模は次第に小さくなってきているものの,いまだ毎年4〜5月をピークとして流行がみられる。特に1984年には北海道を除く全国で流行し,高いピークとなった。その翌年の1985年にはめだって減少したが,1986年以降は毎年ある程度の流行がみられている。これを地域別にみると地域によって発生のピークの年が入れ替っている(図2)。1990年は西日本を中心として発生が増加した(図3)。図2と図3における地域別の比較では,地域による報告定点数などのバラツキを除くために麻しん様疾患患者報告数を突発性発疹患者報告数で割った比を用いている。
患者の年齢分布を図4に示した。1〜4歳が62〜67%を占める。特に1歳が最も多く(33%),次いで2歳,0歳,3歳,4歳の順である。10歳以上は1982年には3%であったが,1990年は7%に増加した。
病原微生物検出情報において麻しんウイルスの分離報告は少なく,1981年1月から1990年9月に至る約11年間の検出数は30株,うち11株は1984年に報告された。検体の種類は鼻咽喉材料23,鼻咽喉材料と眼ぬぐい液から重複して1,髄液6である。年齢は0歳4,1歳8,2歳6,3歳5,4歳3,6歳2,7歳1,29歳1。検査材料採取時における臨床診断名が記載されていた22例についてみると,麻しん様疾患8,髄膜炎6,脳炎・脊髄炎1,風しん2,川崎病2,手足口病1,ヘルパンギーナ1,ウイルス性発疹症1であった。
図5は健康児の麻しんHI抗体保有状況について1984年と1989年秋に調査された厚生省流行予測事業の成績である。1989年の調査成績は1984年と比較して,1,2歳の抗体陽性率がやや高く,逆に4〜9歳では低くなった。
1989年のワクチン接種歴別の抗体保有率を比較すると(図6),ワクチン接種者は5歳以下ではいずれの年齢群も80%以上が抗体陽性である。これに対し,非接種者の抗体保有率は0〜1歳20%以下,2歳で56%,3歳では75%まで増加してワクチン接種者と差がなくなる。この非接種者の抗体獲得パターンは自然感染によるものとみなされるから,3歳未満の子供の間で感染が進行していることがわかる。図6で3歳未満におけるワクチン効果が明らかなので,今後の流行阻止のためには3歳未満の子供達のワクチン接種を徹底させる必要がある。
麻しんにおけるもう一つの問題は年長児の各年齢で20%あるいはそれ以上の感受性者が残っていることである(図5)。この蓄積によって今後,小・中学校あるいは若年成人集団で麻しん流行が起こることが予測される。麻しん罹患年齢の上昇とカレッジ等における麻しん流行がすでに米国,ヨーロッパなどにおいて問題となっており
(本号参照),入学時に麻しん免疫の証明の提出を要求しているところもある。日本においてもこれに対する対策が必要な段階に至っていると考えられる。
図1.麻しん様疾患患者発生状況
図2.ブロック別麻しん様疾患患者発生状況
図3.都道府県別麻しん様疾患発生状況
図4.麻しん様疾患患者の年齢分布
図5.年齢別麻しん抗体保有状況<1984年と1989年の比較>
図6.年齢別麻しん抗体保有状況<ワクチン接種歴別,1989年>
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