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Vol.11 (1990/11[129])

<国内情報>
カンピロバクターの専用水道水汚染による食中毒事例−広島市


 1990年7月末から8月下旬にかけて,広島市の一団地において水系感染によると考えられるカンピロバクター集団食中毒が発生したので,その概要を報告する。

 1.発生状況:8月24日,広島市安佐南区のK団地において多数の住民が食中毒症状を呈しているとの一報が所轄保健所に入り,調査が開始された。その結果,同団地81世帯330名のうち47世帯109名が,7月28日から8月25日の約1ヵ月の間(発症のピークは8月19日,図1)に下痢(97.4%),腹痛(40.4%),発熱(14.7%)等の症状を訴えていることが判明した。また,感染経路として,患者間で共通性の認められる要因は,この団地が上水道未設置地区であることから設けられている団地の「専用水道」以外にはないこと,さらに,この専用水道水は谷川の水を沈殿砂濾過処理後に井水と合わせ,塩素消毒等の殺菌処理を行うことなく各家庭に配水されていることなどから,この給水系が強く疑われた。

 2.細菌学的検査:調査を開始した8月24日時点では,専用水道水を介した伝染病の疑いも考えられたことから,24,25両日当所へ搬入された取水地点で採取した谷川の表流水,井戸水,給水栓水 計3検体および患者便17検体について,赤痢等の伝染病菌と食中毒菌全般にわたる病原検索を行った。検水は,約5lをメンブランフィルター(孔径0.45μm)で濾過後,フィルターを各種選択培地に直接塗布するとともに増菌培地に接種した。カンピロバクターに関しては,Skirrow,Butzler寒天培地およびCEM培地を用いた。検査の結果,検水からは,原因と考えられる伝染病菌,食中毒菌ともに検出されなかったが,大腸菌群MPNが100ml当たり2,400個以上,E.coliMPNが9.1〜15個検出され,何らかの糞便性汚染が考えられた。一方,患者からカンピロバクターが4名(発症日8/3,17,20,21)から検出され,他の下痢症起因菌は認められなかったことから,本菌が本事例の原因菌であることが推定された。この時点(28日)で再度表流水,砂濾過処理水および井戸水各5lを採水し,検査を行ったところ,カンピロバクターが表流水および砂濾過処理水から検出された。汚染菌量は,表流水は増菌のみから,砂濾過処理水は直接塗布平板に1コロニーのみ分離されたことからかなり低いレベルであった。

 3.分離カンピロバクターの性状:患者4名,検水2検体から検出されたカンピロバクターは,生化学的性状からCampylobacter jejuniであった。C.jejuniの血清型別を広島県衛研に依頼し行ったところ,患者由来株は,全てLior4型であった。一方,検水由来株はLior4株抗血清により凝集するが,他の抗血清でも弱い凝集が認められた。現在,Whole-cellのSDS−PAGE銀染色パターンおよびHindV等による染色体DNA制限酵素切断分析により株間の異同について検討中である。

 本事例は,検水由来株と患者由来株間に違いがあることも考えられるが,検水と患者からC.jejuniが検出されたこと,患者由来株の血清型が一致していること,患者間の共通要因は専用水道以外には認められないこと等の検査成績並びに疫学調査結果を総合すると,専用水道を感染経路として発生したC.jejuni食中毒であると考えられる。しかし,水系の汚染原因については究明できなかった。本邦のC.jejuniによる水系感染例は,消毒設備が無いか,有っても正常に作動していなかった例が多い。事例発生後,K団地専用水道には塩素殺菌装置が取り付けられ,その後の水質検査結果は良好であるが,今後も適切な管理が必要である。



広島市衛生研究所 石村 勝之,木戸 照明,萱島 隆之,中野 潔,松石 武昭,荻野 武雄


図1.患者発生状況





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