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Vol.11 (1990/11[129])

<国内情報>
Vibrio mimicusによる食中毒事例−長野県


 ナグビブリオ(V.mimicusおよびNon−O1V.cholerae)は,1985年に新たに食中毒原因菌として指定された。V.mimicusは以前,白糖非醗酵性Non−O1V.choleraeと呼ばれていたが,Davisら(1981年)により新しい菌種として報告された。ナグビブリオ食中毒は当県での事例(1987年)を初発として9例が報告されており,そのうちV.mimicusによるものは4事例である(表1)。1990年7月に長野県内で当該菌による5事例目の比較的規模の大きい食中毒が発生したのでその概要を報告する。

 7月12日から14日に横浜市内の中学生が真田町の菅平高原へ野外活動のためK旅館に宿泊した。7月14日18時頃から15日8時頃にかけて132名が食中毒様症状で発症した。患者の主な症状を表2に示した。下痢は水様性が大半で他は粘液様でほとんどが数回,発熱のほとんどは37℃台であった。K旅館での食事は,12日の夕食から14日の夕食であったが,13日および14日の昼食は他施設(弁当店)の弁当を利用した。発生状況から14日昼食以前の食事が原因であることが推測された。

 所轄保健所で食中毒原因菌の検索を患者便19検体,K旅館従業員の便15検体,食品29検体および調理器具の拭き取り2検体,さらに弁当店の従業員の便および調理器具についても行った。検査の結果,患者11名,従業員2名,食品(ウリカマボコ)およびマナ板の拭き取りからV.mimicusが検出された。弁当店の検体から当該菌は検出されなかった。なお,当該菌以外の特定される既知下痢症原因菌は検出されなかった。分離15菌株は,Vibrio属の定義に一致する性状の他,0%NaClペプトン水に発育,8%NaClペプトン水には発育せず,白糖およびVP反応陰性などV.mimicusの性状に一致し,試験したすべての性状が15菌株とも同一であった。

 以上のことから本事例の原因菌はV.mimicusと推測された。ウリカマボコ(14日朝食)からの当該菌の検出は,検体採取直前にキュウリを当該菌が検出されたマナ板で切り,カマボコと一緒に検食容器に入れたことによると判明した。このため,ウリカマボコは原因食品から除外するのが妥当と判断された。一方,マナ板は冷凍魚介類(13日夕食のメルルーサのフライ)の調理用に使用されたものであった。K旅館で提供された33食品についてχ2検定を行ったが,原因食品の特定は出来なかった。以上のことから,本事例の原因食品は不明であったが,マナ板を介しての二次汚染が原因であったことが強く示唆された。さらに,K旅館は定員の超過,食品原材料の衛生管理およびマナ板の使い分けなど食品衛生全般においての不備が指摘された。

 ナグビブリオ食中毒10事例中,当県で2事例を占めていることから,食品従事者の当該菌を含むVibrio属菌種食中毒に対する認識の向上をさらに徹底する必要があると考える。



長野県衛生公害研究所 村松 紘一


表1.わが国のビブリオミミクス食中毒事例
表2.Vibrio mimicus食中毒の概要





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