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Vol.12 (1991/2[132])

<特集>
無菌性髄膜炎 1990


1990年に臨床診断名が「無菌性髄膜炎」と記載された例,あるいは臨床症状として「髄膜炎」がマークされた検出報告例は802であった。1989年はエコー30をはじめ,多彩なエンテロウイルスの流行がみられたために髄膜炎の報告数が多かった (本月報Vol.11,No.1参照) ので,これにくらべると3割減少した。1990年の髄膜炎例からの分離ではエコー30とエコー9の合計が全体の約半数を占めた(図1)ついで,前年に引き続きムンプスウイルスの報告が多く,このうちサーベイランス定点からの分離報告は58であった。これら上位3ウイルスはそれぞれの総検出数に対する髄膜炎からの検出の割合が高く,エコー30が79.6%,エコー9が63.2%,ムンプスが64.9%を占めたのに対し,エンテロ71は17.2%,コクサッキーB5,B3,B2,A9では41.7〜14.1%であった。

感染症サーベイランス情報における無菌性髄膜炎の発生状況(図2)と一致して,髄膜炎患者からのウイルス検出は7月にピークを示し(図3),9,10月にウイルス分離報告が続いた。特にエコー30とエコー9は10月まで報告数が減少していない。

地域別のウイルス検出状況をみると,1990年中にエコー30は25都県市,エコー9は25府県市,ムンプスは30都府県市といずれも広範に検出された。うち16県市ではエコー30とエコー9の両者が報告された。患者発生報告の多かった鹿児島県ではエコー9,エンテロ71,コクサッキーB5,熊本県ではエコー9,エコー30,宮崎県ではコクサッキーA9が主に分離されている。

感染症サーベイランス情報における無菌性髄膜炎の患者発生報告では,1989年にくらべ0〜4歳の割合が増加している(図4)。

一方,ウイルスが検出された髄膜炎患者の年齢分布では,エコー30とエコー9は4〜6歳がピークとなっているのに対し,エンテロ71,コクサッキーB5,B3,B2などでは4〜5歳とあわせて0歳にもピークがある(図5)。ムンプスは約半数が1歳から,25%が2〜3歳から検出され,0歳からの検出はなかった。

これらウイルスの近年の流行状況をみると,エコー30は1983年に大流行した後,局地的な流行にとどまっていたが,1989年および1990年に再び大きな流行となった。一方,エコー9も1983〜84年の流行後,6年ぶりに1990年に増加した。したがって,この2ウイルスについては4〜5歳に感受性者が多かったと考えられる。これに対し,エンテロ71,コクサッキーB5,B3,B2などはそれぞれ最近数年間相当数が検出されているので,年長児に感受性者の蓄積が比較的少なかったとみられる。また,エコー9は1〜2歳からの分離例43例のうち11例に髄膜炎,28例に発疹が報告された。これに対し3〜5歳では髄膜炎の報告は86例中66例,発疹は12例であった。このように年少群では発疹の割合が高く,一方,年長群では髄膜炎の割合が高い傾向は,過去に1988年のエコー18流行でみられている。

エコー30は155例の髄液から分離された。同一人の複数検体から重複して検出された例として,11例は便と髄液,19例は鼻咽喉材料と髄液,47例は便と鼻咽喉材料と髄液からの分離が報告された。エコー9は47例の髄液から分離された。うち4例は便と髄液,2例は鼻咽喉材料と髄液,7例は便と鼻咽喉材料と髄液からの分離が報告された。



図1.無菌性髄膜炎患者からのウイルス検出状況
図2.月別無菌性髄膜炎患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図3.無菌性髄膜炎患者からの月別ウイルス検出状況
図4.年齢別無菌性髄膜炎患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図5.髄膜炎患者の年齢別ウイルス検出状況,1990年





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