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Vol.12 (1991/2[132])

<国内情報>
エコーウイルス30型による無菌性髄膜炎の集団発生−東京都


1990年10月26日,東京都立清瀬小児病院から,清瀬市内の某保育園において無菌性髄膜炎(AM)が多発しているとの連絡が入り,東京都衛生局,所轄保健所,および都立衛生研究所が調査を開始した。

この保育園は,1歳から5歳児クラスまでの5クラスで,在籍園児は合計82名であった。本保育園の通常の病気欠席者数は,1日当たり平均3〜4名であったが,10月末から11月初旬にかけて病欠者数の増加がめだち,10月22日には8名,26,27日6名,30日8名,31日には9名を数えた。欠席者は4歳児と5歳児クラスに集中し,その欠席理由の連絡は発熱や風邪が大半であった。

これらの欠席園児のうち1名が,10月23日に前述の病院において発熱,嘔吐,頭痛の臨床症状および図髄細胞数増加からAMと診断され入院した。さらに,3日後の10月26日,3名の園児が同様の臨床症状で入院した。これらのうち2名は髄液細胞数増加が認められAMと診断されたが,他の1名の髄液細胞数は正常であった(ただし,本例からも後にエコーウイルス(E)30型が分離されAMと診定された)。さらに,翌27日,患児1名の姉(小学校2年生,8歳)が同様な症状からAMと診断され,上記病院に入院した。また,この病院では,これらの他3名の同保育園児がAMで通院していたことも確認されている。なお,入院期間はほとんどの例が7〜9日間で,予後も良好であった。

ウイルス分離試験には,AMと診断された患者3名,および頭痛,嘔吐のみを呈したもの1名が対象とされ,それぞれ髄液,咽頭拭い液,糞便が,HeLa,HEp2,BGM,RD−18S,Vero細胞に接種された。その結果,すべての材料からRD−18S細胞においてE30が分離された。よって本事例はE30によるAMの集団発生であったことが明らかにされた。

なお,頭痛,嘔吐のみの症状を示した患者は,他の患者に比し入院期間も3日間と短く,しかも軽症であった。この例は,前述のように同ウイルスが検出された結果,本症と診断されていることから,この流行期間にみられた他の発熱,あるいは風邪という理由で欠席した者の中にも本ウイルスによるAMが含まれていたであろうことが示唆された。

感染源は,これまで明らかにされていないが,本事件が明るみに出る前,すなわち10月10日にすでに本保育園児(1歳児クラスと5歳児クラスに在籍)の母親が髄膜炎の疑いで,埼玉県内の病院を受診,10月25日まで入院していた事実がある。この間,この2名の園児には発熱や嘔吐などの症状はみられず。健康な状態で通園していた。しかしながらこれら両名が不顕性感染していたとも考えられ,今回の流行は,この母親と何らかの因果関係があった可能性も否定できない。

東京都においても厚生省の事業と軌を一つにした,「東京都結核・感染症サーベイランス事業」を行ってきているが,この事例のように,本事業によってこの種の疾病の流行が掌握されえない場合もあることは,サーベイランス事業のあり方について,検査定点の適正な配置など検討が求められるところであろう。

なお,本事例とは別に,同年11月にはE30が,上記清瀬市とはるか距離を置いた2つの定点の検査材料からそれぞれ1例分離されている。従って,今回の本症の流行は広範囲なものであったと考えられよう。



東京都立衛生研究所 林 志直 関根整治 安東民衛 太田建爾 三木 隆
東久留米保健所,清瀬保健相談所 清水裕幸





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