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Vol.12 (1991/3[133])

<国内情報>
病原大腸菌による出血性大腸炎及び溶血性尿毒症症候群に関するアンケート調査について(中間集計結果の概要)


平成3年3月1日



1.調査の背景

平成2年10月に発生した埼玉県浦和市の幼稚園における感染性下痢症の集団発生に関して厚生省が開催した専門家会議では,「(本件の原因となった)腸管出血性大腸菌の感染事例について全国実態調査を実施し,その実態把握に努めること。また,本菌に係わる医学的知見等を専門家から聴取するとともに,それを取りまとめ医療機関等に周知する方策を検討すること。」等の意見が出されている。

この意見を踏まえて厚生省では,平成2年度の厚生科学研究事業で「腸管出血性大腸菌の疫学的,臨床医学的研究」(主任研究者:京都大学医学部竹田美文教授,別紙3参照)を行っており,この研究の一環として本調査が行われた。(調査の実施主体は,国立小児病院(小林 登院長))

2.調査の概要

@1次調査:小児科を標榜する全国の3,777ヵ所の病院を対象としたアンケート調査で,出血を伴った大腸炎(出血性大腸炎,HC)及び溶血性尿毒症症候群(HUS,別紙2参照)の症例数,細菌検査結果等を調査

A2次調査:1次調査で把握された症例を対象にその感染経路,臨床症状,治療内容等について調査

今回取りまとめられたのは,1次調査の中間集計結果

3.中間集計の概要

1次調査のアンケート発送後1ヵ月で得た1,362施設からの回答の集計結果は以下の通りであった。

(1)出血を伴った大腸炎(出血性大腸炎)の症例数等

@今回の調査で把握された出血性大腸炎の過去1年間の小児の患者数は,6,034例であった。

A便の細菌検査を行った出血性大腸炎患者4,594例のうち,病原大腸菌(注及び別紙1参照)が検出された症例は10%(462例/4,594例)であった。このうち病原大腸菌の血清型が調べられていたのは52例で,O157型が8例,O18,O55,O125,O126が各4例,その他となっていた。

B上記データ等を基に病院規模別に層別推計を行うと,小児の出血性大腸炎患者のうち病原大腸菌陽性例は全国で少なくとも年間1,200例程度であると推計される。

(2)溶血性尿毒症症候群の症例数等

@今回の調査で把握された溶血性尿毒症症候群の過去5年間の小児の患者数は,550例であった。

A便の細菌検査を行った溶血性尿毒症症候群患者304例のうち,病原大腸菌が検出された症例は14%(43例/304例)であった。このうち病原大腸菌の血清型が調べられたのは14例で,O157が3例,その他にO18,O25,O26,O28,O44,O55,O87,O111,O125の報告があった。

B上記データを基に病院規模別に層別推計を行うと,小児の溶血性尿毒症症候群患者のうち病原大腸菌陽性例は全国で少なくとも年間15例程度であると推計される。

4.調査の今後の課題

@1次調査を継続し,病原大腸菌に関する出血性大腸炎及び溶血性尿毒症症候群に関するより正確な症例数や地域分布等についても検討する。

A2次調査(症例調査)により腸管出血性大腸菌の検出状況,感染経路,早期診断法,治療法を調査検討するとともに,腸管出血性大腸菌感染の実態を明らかにすることを目標とする。

注)病原大腸菌はその性質により,@組織侵入性大腸菌,A病原血清型大腸菌,B毒素原性大腸菌,及びC腸管出血性大腸菌(浦和市の集団下痢症の原因菌)の4種類に分類されている。(詳細は別紙1参照)

別紙1

病原大腸菌

1.発生状況

一般に乳幼児および小児が罹患しやすいが成人も罹患する。

2.分離及び症状

これに属する菌は特定の血清型を有することが分かっている。病原大腸菌の性質によって以下の4種類に分類されている。

(1)組織新入性大腸菌(EIEC)

赤痢菌と同様に大腸粘膜細胞に侵入し,腹痛,発熱,血便等の赤痢の様な症状を呈する。

(2)病原血清型大腸菌(EPEC)

多くの病原大腸菌はこの種類に属している。発熱,激しい腹痛と下痢を伴うサルモネラ症に似た急性胃腸炎の形で発症する。

(3)毒素原性大腸菌(ETEC)

菌が産生する毒素によってコレラ様の下痢を引き起こす。

(4)腸管出血性大腸菌(EHEC)

1982年に米国で初めて報告され,昨年の埼玉県浦和市の集団下痢症の原因となった。ベロ毒素を産生し,血便を起こし,溶血性尿毒症症候群(別紙2参照)を続発することがある。これまで分離・検出された腸管出血性大腸菌の血清型O157が多いが,O157型の大腸菌でもベロ毒素を産生しない大腸菌(従って腸管出血性大腸菌でない)があることと,O157以外の血清型の大腸菌でもベロ毒素を産生している菌があることが報告されている。

3.予防対策

病原大腸菌の感染源は,患者の糞便及びそれに汚染された食品,水,器物,手指である。したがって,予防対策としては以下の3点に注意する必要がある。

(1)食品の衛生的な取扱い(調理,保存,運搬)をして汚染を防ぐとともに,低温に温度管理して菌の増殖を抑えること。

(2)井戸水を飲用に供する場合にあっては,定期的に水質検査を行う等,飲用井戸の衛生管理につとめること。

(3)手指を良く洗い,器も十分洗浄して用いること。

4.潜伏期

一般に12〜72時間,但し腸管出血性大腸菌は通常4〜9日(平均5.7日)と報告されている。

5.予後

通常適切な治療を施せば死亡率は5%以下である。

6.治療

一般的には,抗生物質療法と,脱水症状がある場合の輸液療法が中心。腸管出血性大腸菌による感染で溶血性尿毒症症候群を続発した場合は,腎透析や輸血等の治療が必要な場合もある。

別紙2

溶血性尿毒症症候群

1.症状

本症は,かぜ様症状,胃腸炎のあと1週間以内に突然発症することが多い。

溶血性貧血,腎障害,血小板減少が3大特徴である。その他,血性下痢症や痙攣がみられることがある。

2.病因

腸管出血性大腸菌の感染に続発することが報告されているが,原因不明の場合や遺伝性の原因が推定される場合もある。

3.発生状況

5歳以下の小児に多い。南アフリカやカリフォルニアでは風土的発生が報告されている。

4.治療

一般的には,腎機能障害と溶血性貧血,血小板減少に対する対応が主となる。腎機能障害が重度の場合は人工透析が必要な場合もある。また,溶血性貧血や血小板減少が重症の場合は輸血が必要な場合もある。

別紙3

腸管出血性大腸菌の疫学的,臨床医学的研究について

1.研究の背景

平成2年10月に埼玉県浦和市の幼稚園で感染性下痢症の集団発生が起き,患者のうち2名が死亡し,10名以上の重症患者を出した。患者の便からはこれまでわが国で報告例の少ないO157型等の腸管出血性大腸菌が検出されている。O157型等の腸管出血性大腸菌は,血性下痢症を起こし,一部の患者は腎不全,溶血性貧血を主徴とする溶血性尿毒症症候群を合併し,放置すれば死亡する極めて危険性の高い病原体である。

平成2年10月25日に本件に関して厚生省が開催した専門家会議では,「腸管出血性大腸菌の感染事例について全国実態調査を実施し,その実態把握に努めること。また,本菌に係わる医学的知見等を専門家から聴取するとともに,それを取りまとめ医療機関等に周知する方策を検討すること。」等の意見が出されている。

2.研究の概要

上記を踏まえ,平成2年度の厚生科学研究事業で標記の課題で下記の様な調査・研究を行うこととなった。(主任研究者は京都大学医学部竹田美文教授,研究費100万円)

@地方衛生研究所等の調査

イ.過去2年間に全国の地方衛生研究所で検出された腸管出血性大腸菌につき,その感染経路,臨床知見等を含めて調査する。

ロ.過去2年間に地方衛生研究所で分離された病原大腸菌について毒素等の検査を行う。

A小児医療機関の調査

イ.1次調査:全国3,777ヵ所の小児科を標榜する病院を対象にアンケート調査を行い,出血性大腸炎及び溶血性尿毒症症候群の症例数等を調べる。

ロ.2次調査:1次調査で把握された症例を対象に腸管出血性大腸菌の検出状況,感染経路,治療法等を調査する。

Bその他

腸管出血性大腸菌に関する文献を調査し,これまでの内外の知見を整理する。

3.研究組織



生活衛生局食品保健課 保健医療局結核感染症対策室








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