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WHO腸内細菌ファージ型別センター(英国)では1987年にS. Enteritidisのファージ型別システムを確立し,1980年代後半から欧米で増加傾向にあったS. Enteritidisの流行を世界的な視野で監視してきた。現在,英国のサルモネラ食中毒の76%がS. Enteritidisで,その80%がファージ型4であること,米国での主なファージ型は8であること等が判明している。また,先進国で急増したS. Enteritidisによる食中毒の大半は本菌で汚染された鶏卵が原因であることから,各国で大きな問題となっている。
わが国では1989年のS. Enteritidisの急増を機に1990年3月,急遽本菌のファージ型別を導入した。S. Enteritidisは14種のファージで47の型に型別される。これまでに全国各地から予研のセンターに送付されたS. Enteritidisは1989年および1990年の分離株を中心に約1,500株に達し,検出されたファージ型は26種に及んだ。
表1はわが国で高頻度に検出されたファージ型の年別,地域別分布である。8型は従来よりわが国に分布している型であり,1989年および1990年には34型および4型が出現,あるいは急増したことが判明した。表2は主なファージ型の検出率である。1989年にわが国で分離された菌の60.2%が34型であったが,1990年には4型が54.6%を占め,1989年の主流であった34型と置き換ったことが判明した。34型はわが国にきわめて特徴的な型であり,いつ,どこからわが国に持ち込まれたのか不明である。4型は英国をはじめヨーロッパで流行している型で,その多くが鶏卵関連食中毒から分離されたものである。
わが国でも,1989年および1990年の食中毒では原因食品に鶏卵が疑われたケースが多かった。1990年の食中毒では,原因食品および患者からの分離が同一ファージ型を示す例を多く経験し,疫学調査の手段としてファージ型が有効であることを確認した。
当センターでは,公衆衛生上有用な実験室由来情報を関係機関に迅速に提供するために,腸チフス対策でとられてきた従来のシステムに準じて,送付機関へのデータの還元を行っている。本年も食中毒のシーズンを間近にしてS. Enteritidisの動きが注目されるところである。流行発生の際には,予研ファージ型別室宛に分離株菌を送付されれば型別結果を還元するので,解析に利用してほしい。
予研細菌部ファージ型別室 中村明子
表1.Salmonella Enteritidis主要ファージ型のわが国における分布
表2.食中毒患者から分離されたS. Enteritidisのファージ型分布(%)(1989年および1990年)
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