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Vol.12 (1991/8[138])

<国内情報>
青森県で発生したYersinia pseudotuberculosisによる集団感染症


平成3(1991)年6月,本県野辺地町の小中学校5校の児童,生徒らに発生した集団感染症は,従来,原因不明疾患とされてきた「泉熱」の症状に酷似,その発生は新聞等で紹介され関心を呼んだ。

検査の結果,本症の原因菌はYersinia pseudotuberculosis(以下,Y. pdt)であることが判明したので,その概要を報告する。

発生状況:平成3年6月5日,所管教育事務所から,発熱,発疹,下痢等による野辺地町2小学校児童の欠席,早退(637名中欠席144名,早退72名),また,同様の症状で同町中学校生徒の欠席(803名中120名)がある旨,保健所に届出があった。さらに翌6日に同町内の他の小学校2校からも同様の届出(83名中欠席26名)があり,同町内での発生は小学校1校を除く小中学校5校となった。

しかし,一般住民および近隣の市町村には異常が認められず,発生は野辺地町の5校に限られた。たまたま同町内にありながら非発生の1校が,5月29〜31日までの3日間,行事のために学校給食が供されなかったことが分かり,感染源として同町給食センター調製の給食が強く疑われるに至った。

医療機関の受診者は6月5日から7日に集中し,患者数は7月18日現在,児童,生徒等が730名(うち入院122名),教職員5名および調理従事者1名,合計736名(暫定数)である。

臨床症状は発熱38〜39℃以上,発疹,吐気,嘔吐,腹痛,下痢等の他,急性腎不全,肝機能障害が認められている。また,症状の再燃や遷延する患者も多く,7月18日現在でも入院8名,通院15名,欠席者33名となっている。推定潜伏期間は,原因食品が確定していないため感染暴露日は特定できないが,平均5〜6日と思われる。

検査成績:本症の発生状況を考慮し,採取した下記試料について食中毒起因菌,溶連菌,ウイルス等の検査に併行し,Y. pdtの検索を行った。糞便検体からのY. pdtの検査はキャリーブレアに採取後,浸出液の定量培養と,KOH処理後,直接分離培養を25℃で行い,増菌培養からの菌分離はM/15PBS(pH7.6)で5℃の低音培養を4週間,そして週ごとの増菌液をKOH処理し実施した。分離培地はCIN培地,SSB培地,マッコンキー寒天培地を併用した。その結果,患者糞便33検体中26検体(直接培養で9,増菌培養で17),調理従事者糞便17検体中1検体,給食施設内の排水溝汚水1検体からY. pdtを検出した。他の検査対象菌は検出されなかった。また,患者の咽頭ぬぐい液および血液各33検体,給食施設の検食19検体(6月3〜6日),ふきとり56検体および上水10l等からはY. pdtは不検出に終わった。

分離菌の生化学的性状は従来報告のそれに一致した。血清型および病原性状は分離28株中14株について調べられ,全株が血清型5a,病原プラスミドを保有し,その制限酵素切断パターンにも同一性が認められた。また,自己凝集性,カルシウム依存性は陽性であった。分離菌の薬剤感受性はセフェム系,ペニシリン系,クロラムフェニコール,テトラサイクリン系,アミノグリコシド系,一部の化学療法剤,Ndに感受性,マクロライド系,エリスロマイシン,オレアンドマイシン等には耐性であった。患者血清の抗体価は急性期10倍〜20倍,回復期320〜1,280倍で,8〜32倍の有意上昇がほとんどの例で認められた。

今回のY. pdtの分離例では,糞便の生理食塩水浸出液を5℃で2〜3週間保存後,KOH処理をしたもの3検体から分離されたこと,環境試料中の低温細菌の優位発育に伴う分離の困難性等,検討が必要と思われた。また,感染源に関する調査は今後の課題である。

最後に,分離菌の血清型,病原性状試験の実施およびご指導をいただいた国立公衆衛生院丸山務先生,病原性試験にご協力をいただいた東京都立衛生研究所金子誠二先生,ご協力をいただいた国立予防衛生研究所渡辺治雄先生,田村和満先生,東京都立衛生研究所伊藤武先生,青森県,公立野辺地病院葛西幹雄先生,青森県立中央病院川村千鶴子先生,ご助言をいただいた岡山県環境保健センター井上正直先生並びに多数の関係者のご指導,ご協力に深甚の謝意を表します。



青森県環境保健センター
豊川安延 大友良光 佐藤允武 三上稔之 木村淳子 秋山 有





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