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Vol.12 (1991/10[140])

<特集>
溶血レンサ球菌感染症


感染症サーベイランスにおける溶連菌感染症の発生報告総数は1987年50,353,88年54,597,89年59,010,90年60,004と漸増傾向にある。定点当たり年間報告数でも,1982年〜85年の25〜28人から86年および87年には21人に減少したものの,88年から再び増加し,90年には24.93人となった。この傾向は今年も続き,1991年第2四半期までの定点当たり累積報告数は14.80人で,1989年同期の12.20人,1990年の12.21人に対して20%増となった。

ブロック別発生では,従来通り北海道,東北など北日本で多く,九州・沖縄で少ない傾向が続いている。発生パターンでは1〜3月,5〜7月に低い山,10〜12月に高い山の三峰性が例年繰り返されている(図1)。患者の年齢分布は5〜9歳が51%,ついで4歳19%,3歳11%と,患者の8割が幼児,学童で占められている(図2)。

1985−1991年7月の地研・保健所集計によるA群レンサ球菌の月別検出状況と1990年末までのT型別検出状況を図3に示した。わが国で上位に検出されるT・4型およびT−12型の検出数が1990年末に急増しているのが注目される。

病原微生物検出情報では1990年1月から医療機関の集計様式を検体材料別に改めた。本集計によると,A群レンサ球菌は大部分が咽頭および鼻咽喉から分離報告され,月別検出数は4月と8,9月に減少し,患者発生パターンと同様三峰性を示した。一方,喀痰,気管吸引液,下気道からのA群レンサ球菌およびB群レンサ球菌の検出数には季節性はみられない(表1)。感染症サーベイランスにおける溶連菌感染症がA群レンサ球菌による咽頭炎を主体としていることの証左と言えよう。

東京都立衛生研究所で実施された溶血レンサ球菌の薬剤感受性試験成績によると,1988年以降は分離株の約60%がテトラサイクリン(TC),クロラムフェニコール(CP),マクロライド系(MLs)に対して感受性であった(図4)。また,呼吸器系患者から分離されたA群レンサ球菌のうち,TC・CP・MLs多剤耐性菌出現率は1989年0.2%(2/872,T−1型およびT−12型各1株),1990年0.5%,(3/618,T−12型3株)であった(第23回および第24回レンサ球菌感染症研究会,1989,1990)。従来,T−12型では耐性率の減少と検出数の減少が平行して推移してきたので,1990年末のT−12型検出数の増加が今後の耐性率の増加に連なるのか否か,注意が必要である。

1990年1月以降,医療機関集計でB群レンサ球菌に関する個別情報が7例報告された。いずれも髄膜炎を発症した2ヵ月以下の乳児の髄液または血液から分離されたものである(表2)。B群レンサ球菌による新生児髄膜炎は,本菌を保持している母親からの出産時感染が多いとされている。さらに,医療機関集計(表1)のB群レンサ球菌分離報告の3分の2が陰部尿道頚管擦過(分泌)物由来であった。これらの成績はB群レンサ球菌の周産期医療における重要性を示すものである。



図1.溶連菌感染症患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図2.溶連菌感染症患者年齢分布(感染症サーベイランス情報)
図3.A群レンサ球菌月別検出状況 1985年1月〜1991年7月(地研・保健所集計)
表1.A群およびB群レンサ球菌の検体材料別月別検出状況(医療機関集計)
図4.A群レンサ球菌の耐性パターンの年次推移,1979〜1990年
表2.B群レンサ球菌の個別情報(医療機関集計,1990年1月〜1991年6月)





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