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Vol.12 (1991/10[140])

<資料>
千葉県等におけるコレラ患者の発生に関する見解と当面取るべきコレラ対策の強化策について


平成3年9月26日,公衆衛生審議会伝染病予防部会コレラ小委員会が開催され,関係都県市(千葉県,東京都,神奈川県,横浜市)からの報告を受けるとともに,各種の情報を収集し検討した結果,小委員会の意見として次の報告がなされた。



平成3年9月26日



コレラ対策については,これまでも,国内のコレラ集団発生事例やコレラ患者の輸入例に見られる国内侵入の危機に鑑み,昭和52年以来,コレラ汚染地域からの来航者についての防疫対策及び輸入生鮮魚介類の検査の強化等が図られてきた。

しかし,最近の国際交流の活発化を反映して,年々輸入例が増加するようになっている。また,平成元年9月には,海外渡航歴がないコレラ患者の集団発生が名古屋市でみられた。そして,海外では,南米等においてコレラの大規模な集団発生も報告され,コレラをめぐる情勢は必ずしも楽観できない状況にある。

このような中で,本年,8月下旬から9月上旬にかけて千葉県等で海外渡航歴がない者からコレラ患者の発生がみられた。本委員会では,このコレラ患者の発生を重視し,千葉県,東京都,神奈川県,横浜市等から状況を聴取すると共に,各種の情報を収集し,検討した。その結果,本委員会は,千葉県等におけるコレラ患者の発生に関する見解と当面取るべきコレラ対策の強化策について,以下のとおり報告する。

千葉県等におけるコレラ患者の発生に関する見解

(1)患者の発生状況について

本年8月下旬から9月上旬にかけて千葉県等で発生したコレラ患者の発生状況は,真性患者19名,疑似患者3名,合計22名(内,死者1名)であった。8月23日に最初の発症者が千葉県富山町に現れ,8月28日に最初の真性患者が神奈川県相模原市で発見された。8月30日に最後の発症が神奈川県大和市で見られ,9月8日に最後の真性患者が神奈川県大和市で発見された。以後,コレラ患者の発生は,みられない。また,すべての患者は,9月18日を最後に退院している。

(2)二次感染について

患者調査,接触者調査等より,現時点まで二次感染者は発見されていない。このことと,コレラの潜伏期間からみて,二次感染の恐れはないものと判断できる。

(3)以上の(1)(2)より,今回のコレラ患者の発生は,終息したものと考えられる。

(4)感染経路について

感染経路については,種々の調査を行い,原因の究明に努めたが,現在までのところ,発生原因を特定するに至っていない。今後,感染経路について,各自治体においても,これまでの調査結果等に基づいて,更に検討を行うことが望ましいと考える。

なお,共通食品の一つとして原因となったのではないかと疑われた食品も存在し,種々の調査をおこなったが,推定の域を出ず,千葉県の宿泊施設の残食品の中からも,この食品の流通ルートからもコレラ菌が発見されなかったため,原因として特定するに至らなかった。

(5)今回検出されたコレラ菌の疫学マーカーの特性について

今回,患者から検出されたコレラ菌に関して,国立予防衛生研究所において,ファージ型別検査,薬剤耐性パターン検査,プラスミド検査,制限酵素切断図検査を行ったが,差異は認められなかった。

(6)今回のコレラ発生への対応について

@初動での対応について

今回の患者発生時の初動に際して糞便の検査が必ずしも十分に行われていなかったため,コレラ患者の発見が遅れると共に,原因の究明も困難となったと考えられる。

今後は,初動での対応をより適切に行う必要があると考える。

A原因食品の特定とその公表時期について

今回は,十分な疫学的調査の行われていない初動の段階で,特定食品への不安が広がったために,疫学調査の困難性が増し,原因究明に支障をきたした。今後,発生原因の特定や公表は,十分な疫学的調査を行った上で行う必要があると考える。

当面取るべきコレラ対策の強化策について

今回のコレラ患者発生に関する見解をもとに,当面取るべきコレラ対策の強化策について,以下のように報告する。

(1)菌検査範囲の拡大

患者の早期発見のために,下痢を主徴とする急性胃腸炎症状を呈する患者発生の報告があった場合には,必要に応じて,食中毒菌の検査のほか,伝染病も疑って,コレラ菌,赤痢菌等の検査もできるような体制を作る必要がある。

(2)患者等発生時の対策

患者等の発生時には,昭和53年8月11日(衛発第701号)「コレラ防疫対策実施について」にのっとって対策を実施することになるが,防疫担当部門と食品衛生部門及び環境衛生部門とが密接な連携を取りつつ迅速に所要の対策を実施するとともに,平常時から発生時においてより迅速かつより適切に対応できるような訓練を行う必要がある。

(3)医療機関に対する啓発

国内においては,早期発見ができるよう医療関係者に対しては,国際化を反映したコレラ患者の最近の動向について,都道府県や医師会等を通じ必要に応じて情報を提供し,コレラに対する注意を喚起する必要がある。また,医療機関において患者(真性患者,疑似患者),保菌者もしくは要観察者と診断された場合は,速やかに所轄の保健所への届出あるいは通報が行われるよう従来のコレラ防疫にかかわる事項の再確認と協力要請を行うことも重要である。

(4)コレラ菌検査の充実強化

感染源の究明のため,ファージ型別検査,薬剤耐性パターン検査,プラスミド検査を導入する必要がある。また,新たな疫学マーカーとしての制限酵素切断図検査や,コレラ菌検出の迅速化のためのPCR法による迅速検査法の開発,研究に努めるべきである。

公衆衛生審議会伝染病予防部会コレラ小委員会委員名簿(専門委員)

稲葉 博 成田空港検疫所長

今川八束 麻布大学環境保健学部教授

倉科周介 東京都立衛生研究所長

島田俊雄 国立予防衛生研究所細菌部細菌第一室長

竹田美文 京都大学医学部教授

中村明子 国立予防衛生研究所細菌部ファージ型別室長

古山量朗 横浜検疫所長

○三輪谷俊夫 前大阪大学微生物病研究所長

村田美紗子 都立墨東病院感染症科部長

○印は委員長



公衆衛生審議会伝染病予防部会 コレラ小委員会





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