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1991年の東京都における無菌性髄膜炎(AM)の流行は,8月末現在のところすべてエコーウイルス30型(E30)によるものであった。
11病院定点から検査材料が得られたが,大田区内の一定点では65名のAM患者から材料が搬入された。この病院を受診したAM患者数は6月にピークとなり,7月には減少傾向にあった。また,この病院では,経日的に採取された材料が多数そろっていたため,E30の排出期間について若干の知見が得られたのでその概要を紹介する。
この定点では,5月18日から8月7日までの間に65名の患者から髄液108件,咽頭拭い液66件,糞便32件が得られ,ウイルス検索を行なったところ36名(55.4%)からE30が検出された。材料別にみると髄液は63名から得られ,このうち32名(50.8%)から同ウイルスが検出された。咽頭拭い液と糞便からのウイルス分離成績は,前者が15名中8名(53.3%),後者が7名中5名(71.4%)であった。
東京都のAMサーベイランス情報によると,都内におけるAM流行は7月まで遷延しており,そのほとんどがこの大田区内の事例より遅れて発生した。AM患者の年齢分布は,0〜3歳(7.9%),4〜6歳(38.1%),7〜9歳(33.3%),10〜15歳(11.1%),24〜50歳(9.5%)であった。なお,24〜50歳の成人患者は,8月上旬に集中していた。
AMの主症状である発熱,頭痛,嘔吐のいずれかが出現した日を第一病日とし,検査材料別にE30の検出状況を表に示した。
髄液は,発生後最長6日まで分離されたが,1〜2病日の検出率が最も高く53.8%であり,病日の経過とともにウイルス分離率は低下していた。このことから,ウイルス分離を目的とした髄液は急性期に採取を行なうことの重要性が改めて確認された。咽頭拭い液と糞便からの分離状況をみると,咽頭拭い液からの最長検出病日は9病日であったのに対し,糞便からのそれは12病日であった。咽頭拭い液からのウイルス分離率は,髄液と同様1〜2病日において最大となり,以後の分離率は低かった。一方,糞便からの分離率は10病日まで高率を示していた。したがって,E30によるAM防疫対策には,飛沫感染も重要であろうが,糞口感染経路に関する対策もさらに重要であることが示唆された。
東京都内で昨年10月以降,急増してきたこのE30によるAMの流行には,二つの特徴がみられる。第一は,集団発生例が多く認められることである。既に病原微生物検出情報12巻2号で報告した1990年10月の清瀬市内の保育園における集団例,本年6月における港区内の乳児院,福生市内および小金井市内におけるそれぞれの地域内での集団発生,また,未確認情報ではあるが新宿区内の病院内における事例,などである。さらに,本報で取り上げた大田区の場合も,患者情報を調べると,ある特定の小学校に集中している集団発生と考えられる事例であった。
第二は,高い年齢層からも患者が認められていることである。AMの好初年齢は,一般的に4〜5歳あるいはそれ以下が中心であるが,本年は年齢の記載があった患者135名のうち17名(12.6%)は中学生以上の年齢層であり,そのうち7名(41.2%)からE30が検出されている。
同一型のウイルスによるAMが年を越えて流行することは稀であるが,E30による本疾患が今後どのように推移するか,流行状況の監視に細心の注意を払う必要がある。
東京都立衛生研究所 林 志直 関根整治 安東民衛 太田建爾
病日別エコーウイルス30型分離状況
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