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Vol.12 (1991/10[140])

<国内情報>
学校給食によるウェルシュ菌食中毒事例−長野県


長野県におけるウェルシュ菌食中毒は,過去10年間に8件(患者数762名)発生しているが,そのほとんどは患者数100名以下の小規模な発生であり,1981年の病院給食が原因となった事例(患者数338名)が最大であった。

1991年7月に諏訪市内の2小学校で給食が原因となったウェルシュ菌食中毒が発生した。本事例は,本菌の発生では近年になく大規模な事例であったので,その概要を報告する。7月11日に所轄保健所に諏訪市内の2小学校から相次いで,児童多数が胃腸炎症状を呈し,そのうち数十名が欠席している旨,連絡があり,調査を行った。本事例の概要を表に示した。患者は両小学校の児童1,124名中556名,教職員62名中9名の合計575名であった。両小学校の学年別の患者発生状況は,各学年の発症率に若干のばらつきがあるものの,全学年の児童が発症し,男女差も認められなかった。患者の臨床症状は,下痢(74.6%)および腹痛(61.9%)のみで,嘔吐,嘔気,発熱および頭痛などは5%以下であり,比較的軽症であった。患者発生は7月10日の夕方から11日の正午頃であり,そのピークは10日の深夜で,平均潜伏時間は約11時間であった。両小学校は同じ栄養士が給食の献立作製を担当しており,7月10日の給食メニューも同一で,給食材料もほとんど同一業者から納入されていた。

食中毒原因菌などの検索は,患者および給食従業者の糞便,7月8日から10日の学校給食の残品,調理器具の拭き取りおよび飲料水などについて行った。その結果,患者176名中85名(48.3%)および7月10日の給食(チャーシュー)からウェルシュ菌をそれぞれ,103〜106/g,104/g検出した。なお,ウェルシュ菌のHobbs型別は不能であった。さらに,患者68名の糞便からウェルシュ菌エンテロトキシンの検出を試み,30名(44.1%)が陽性であった。チャーシューはM惣菜業者から7月10日の午前8時〜8時20分に両小学校に納入され,12時まで室温に放置されていた。このことから,原材料の汚染および室温放置によりウェルシュ菌の増殖があったものと推測された。

これらの調査から,本事例はウェルシュ菌食中毒と判断し,学校給食の自粛の指導およびM業者の営業停止処分を行った。ウェルシュ菌食中毒は本事例のごとく,大規模発生となることが多いことから,大量調理の際の温度管理を十分に行う必要がある。



長野県衛生公害研究所 村松紘一 山岸智子


ウェルシュ菌食中毒の概要





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