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1991年8月上旬から中旬にかけて,広島市内の保育園において,多数の園児が下痢・発熱を起こし,園児の便からSalmonella Enteritidis(以下S. Enteritidis)を検出した。当初,食中毒が疑われたが,患者の発生状況等から保育園で飼育しているペットを介しての集団感染の可能性があり,稀な事例として以下概要を報告する。
8月14日,安佐南区の保育園で,多数の園児が下痢等で休んでいるとの情報を管轄の安佐南保健所が得た。同保健所の調査により,同区内のO保育園(園児数123名)において,8月初めから下痢・発熱で多数の園児が欠席し,園児のうち数名が医療機関の検便でサルモネラを検出していることが判明した。そこで,当初にて血清型別を実施したところ,S. Enteritidis(O9:g,m:−)であった。
8月1日から12日までの日別患者発生数を表1に示した。7日の19名を最高に計42名に達したが,13日以降は新たな患者発生はなかった。
また,年齢(クラス)別患者発生状況およびS. Enteritidisの検査状況を表2に示した。患者は1〜3歳児に比較的多いが,全年齢層(全クラス)にわたって患者が発生していた。一方,事件を探知した14日から9月3日までの間に,園児111名および職員の検便を行い,園児59名(53%)からS. Enteritidisを検出した。検出率は各年齢層いずれも高く,特定のクラスに集中することはなかった。なお,職員,給食調理員の検便からはサルモネラを検出しなかった。
8月10日から14日までの給食,給食施設のスワブ,乳幼児のおもちゃ,園児が使用するトイレ,床カーペットなど園内施設のスワブを検査したが,すべてサルモネラは検出しなかった。しかし,園内で飼育されているチャボ,ニワトリ,ウサギなど動物の糞,カタツムリの糞,フナ,ザリガニの飼育水,カメの飼育容器(飼育していたイシガメは調査時に行方不明)等を検査したところ,チャボの糞からS. Enteritidisを検出した。
患者便,チャボから検出したS. Enteritidisの薬剤感受性試験を行ったところ,いずれもSM耐性であり,また,約36Md附近に一本のプラスミドを保有していた。一方,ファージ型別を国立予防衛生研究所(予研)に依頼したところ,いずれも3型であることが判明した。予研の調べによると,ファージ3型による発生例は過去に海外旅行由来が1例あるのみで,国内での集団発生例は初めてのケースであるとのことであり,今後の動向に注目したい。
保健所の調査の結果,原因・感染経路については当初保育園における食事を原因とする食中毒が疑われたが,@患者の発生状況が通常の食中毒発生のパターンとは異なる,A発生当初の検食はないものの調査時の検食等からサルモネラは検出されず,飼育動物のうちチャボの糞からS. Enteritidisが検出された,B同園では,チャボ,ニワトリ,ウサギなどのペットを園内で放し飼いにし,自由に触れることができる方針をとっている,C乳幼児は同菌の少量摂取でも発症することがあると言われている。これらの状況と乳幼児の行動から推察すると,飼育動物などから手指を介して園児に感染したことが考えられた。
本事例は乳幼児を持つ保護者をはじめ他の幼稚園,保育園などの関係者に不安感を与えるなど公衆衛生上問題となった。そこで,市衛生局は再発防止のため,市民や幼稚園・保育園の関係者に対し,ペット等の適正な飼育管理方法について喚起を促した。
広島市衛生研究所 萱島隆之 石村勝之 蔵田和正 中野 潔 松石武昭 荻野武雄
表1.日別患者発生数
表2.年齢(クラス)別患者発生状況およびS. Enteritidis検出状況
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