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Vol.13 (1992/2[144])

<国内情報>
O中学校におけるS. Enteritidisファージ型34による胃腸炎の集団発生−福井県


 1991年9月30〜10月14日に,福井県のO中学校において食中毒様胃腸炎が集団発生し,食中毒と感染症の両面から調査が行われた。原因はS. Enteritidisファージ型34によることがつきとめられた。しかし,通報の遅れ,検査材料の入手不能等から感染経路は不明であった。以下にその概要を報告する。

 10月11日,食中毒様症状で治療を受けたO中学校(生徒数687名,教職員47名)の生徒12名の便からサルモネラ菌を検出したとの連絡が小浜保健所に入った。保健所の調査によると,同校では9月30日から腹痛(88.0%),下痢(51.0%),発熱(34.8%)等の症状を持つ患者が多数出ていることが判った。日別患者発生状況は図に示したとおりである。患者は生徒348名(1年106名,2年126名,3年116名)教職員11名であり,発症率は48.9%に達した。生徒職員645名(645/734,87.8%)の当所送付検便中346名(53.6%)からS. Enteritidis(以下.Eと略す)を分離した。また,調理従事者1名,食品納入業者1名からも.Eを分離した。分離株はSM耐性であった。103株を選んで国立予防衛生研究所にファージ型別を依頼した結果,すべて34型であった。10月8日,9日の検査から.Eは検出されなかった。日曜日をはさんだ5日〜7日は給食がなかったので,学校給食が原因と仮定すれば,10月4日以前の給食が原因と考えられる。しかし,残された食品はすでになく,検査できなかった。調理器具,食器のフキトリから.Eの検出はなかった。患者が9月30日から10月14日まで2週間以上にわたって発生していること,患者発生のピークが10月7日以外にもいくつか見られること等,通常の単一暴露型食中毒とやや異なるパターンが見られた。

 学校内の給水は上水道直結で,受水槽,高架水槽は設置されていない。10月11日に採取した調理場水道水には残留塩素が検出されず,一般生菌数は149/mlであった。大腸菌群およびサルモネラ菌は陰性であった。体育館横の井戸水は一般生菌数36/ml,大腸菌群陰性で,7l分の増菌でもサルモネラ菌は検出されなかった。なお,井戸水を飲まなかった者からも患者が発生した。.E陽性の食肉納入業者は,給食の納入に直接関わらず,ほぼ無関係とされた。学校給食従事者(10月7日発症)は10月11日の検便で.E陽性であったが,9月13日の定期検便では異常がなかった。食品関係では,当該期間内に納入された鶏卵と同じ鶏舎の鶏卵,および食肉類,ベーコン,コロッケの納入業者の同種食品から当該菌は検出されなかった。ちなみに,給食に卵製品が出たのは9月27日(マヨネーズ),10月1日(卵とじ),10月3日(マヨネーズ,ゆで卵),10月9日(卵焼き)の4回であった(マヨネーズは市販のものを使用)。

 以上,患者が中学校に限定しているので,同中学校に何らかの本件発生原因が考えられる。しかし,食品,水から.Eが検出されず,原因物質,汚染経路は解明できなかった。今回,発見が遅れた理由として,学校側では風邪であると推測していたこと,当初はクラスごとに見れば少人数であったため,欠席状況が変わらなかったことをあげている。すなわち,下痢,腹痛があっても,検査せずに安易に風邪によるとする風潮が災いしたと考えられ,今後に教訓を残した。当該保健所はサルモネラ食中毒文書を生徒および家族に配布し,不安解消と再発防止に努めると共に,施設の改善,職員の衛生教育を徹底した。幸い15日以後は新たな患者発生はなく終息した。



福井県衛生研究所 小林 桂子,竹内 冨美恵


日別患者発生数





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