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1991年9月5日から13日にかけて,広島市内の給食弁当調製施設(以下A社)が配達した給食弁当によって,大規模な毒素原性大腸菌食中毒が発生したのでその概要を報告する。
9月7日(土),A社の弁当を食べた1グループの関係者から職員の中に下痢を呈している者がいるとの連絡が所轄保健所にあった。ただちに,A社での聞き取り調査と保存していた検良の細菌学的検査を開始したが,この日の夕刻時点では,他に同様な苦情はなかった。ところが,2日後の9日(月)になって,市内の一診療所医師から,「A社の弁当を食べて下痢等の症状を呈した複数の患者を診たが,他にもいるらしい。」との通報があり,A社の弁当が原因とみられる食中毒が複数グループにわたって発生していることが確認された。保健所による調査の結果,患者は最終的には,583事業所1,484名に及び,本市ではこれまでで最大規模の食中毒となった。
患者の主症状は下痢(94.2%),腹痛(69.0%),しぶりばら(25.3%)などで,入院患者はなく症状は軽かった。
当初搬入された検体の細菌学的検査では,検食(9月5,6日のもの),環境ふきとり,および患者糞便等からウェルシュ菌(Hobbs型型別不能)およびセレウス菌が分離されたため検査を継続した。しかし,患者からの分離率はあまり高くなく,患者の発生状況(図)も数日間に及ぶことから,これらの菌の食中毒発生形態とは異なるようにも思われた。一方,患者糞便から分離した大腸菌の中に,市販のO群抗血清には凝集しないがTSI培地およびLIM培地上でよく似た性状および発育性(運動性)を示す菌株が認められた。
そこで,これら3菌種について同時並行で病原性試験を実施した。ウェルシュ菌については,エンテロトキシン産生遺伝子の有無を当所で検討したPCR法で,セレウス菌は,下痢原性毒素産生性をRPLA法(デンカ生研)で試験した。また,大腸菌は,薬剤感受性を調べるとともに,下痢原性大腸菌の病原性遺伝子の有無を混合プライマーによるPCR法(LT,ST,VT,invE遺伝子同時検出法)で行った。その結果,ウェルシュ菌およびセレウス菌の試験結果は陰性であった。しかし,性状−発育性のよく似た大腸菌は,いずれもPCRの結果からST遺伝子を持つことが判明し,薬剤感受性パターンも同一であった。最終的には,検査した患者123名中82名(66.7%),調理従事者38名中3名(7.9%)から同菌が検出された。本菌のH抗原はH41で同一であった。また,ST産生性はELISA法でも確認された。
これらの試験結果から,このST産生性の毒素原性大腸菌(OUT:H41)が本事例の原因菌と断定された。一方,原因食品および汚染経路については,検食および環境のふきとり検体からは同菌は検出されず,細菌学的には特定できなかったが,喫食調査および発症状況から,5日の給食弁当が主な原因で,一部の患者は6日の弁当でも発生したことが推定された。A社は,当時5,500食を毎日調製しており,施設の規模,設備の能力以上の調製量であった。このことが,長時間放置などの不適切な調理工程をまねき,大規模な食中毒発生につながったものと考えられた。
広島市衛生研究所
石村 勝之,萱島 隆之,蔵田 和正,中野 潔,松石 武昭,荻野 武雄
図 日別患者発生状況
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